13.ホテルにて

文字数 2,191文字

台北駅にたどり着く。ここが台湾の中央駅、日本でいうところの東京駅みたいなところだろう。下車する人も多く、流れにそって改札外に出た。トークンを入れるところがあり、そこにコインよろしく投入するとゲートが開く。

改札口を出たところにあった地図をよく見る。そして、今回お世話になる宿があるであろう方向の出口を確かめて、そちらに向かった。迷うかと思ったが、案外すんなり目的の出口から外に出ることが出来た。

ようやく日が暮れ始めてきたようだ、空がオレンジ色に染まっている。出口のすぐ横は大通りになっている。その向こうにはひと際大きな建物がある。あれが台北駅の外観だろう。国旗が掲揚されていた。とりあえず写真を一枚。左手を見やると、見覚えのある店を見つけた。コメダ珈琲である。台湾にもあるんだなあ、とこれも1枚パシャリ。

地図によれば、ここから5分もしないところに宿はあるようだ。大通りから路地に入り、少し歩いていくと、特に迷うことなく宿を見つけた。雑居ビルの2階にフロントがあるらしい。さて、どうやり取りしたものか。頭の中で英語をおさらいしながら、階段を上がっていく。

階段を登り終えて、小ぢんまりとしたフロントが見えた。本棚の壁紙に囲まれた、少しモダンな雰囲気。若い人向けな印象を受けた。とりあえず、あからさまにヤバそうな感じではなかったので少し安心する。

ただ、フロントに人がいなかった。近くに案内があって、スタッフは今外出しています。と書かれている。どうしたものか。連絡先も特段書いていない。呼び鈴のようなものもない。少し外をぶらついて時間を置くことも考えたが、もうすっかりくたびれてしまったので、そんな気分にもなれない。仕方は無しに、フロントの近くに会ったソファに腰を下ろして、待ってみることにした。

幸いなことに、それほど時間はかからずに、スタッフに会うことは出来た。ロビーから見える部屋から一人の女性が廊下に出てきたが、その人がこちらを見るなり「ハロー、チェックインですか?」と英語で声を掛けてきた。私は安心して、「はい、お願いします」と答えた。

小柄でメガネをかけた人懐っこい感じの人だった。パスポートを見せたり、クレジットカードで前払いを済ませたり、WiFiのIDとパスワードを確認したりして、手続きを進める。ここまでは、特段困ったことは無かったのだが、いまいち上手くやり取りできなかったことがあった。

私の後ろにあるウォータサーバや冷蔵庫を指差して、何事かを説明してくれた。水は好きに飲んでよいということは理解できたのだが、その横の冷蔵庫の説明がよくわからなかった。「好きに使っていいということですか?」と聞いたのだが、どうやらそうではないらしく、紙に漢字を書いたり、あれこれ迷いながら伝えようとしてくれる。何度か聞いている内に、自分の部屋には冷蔵庫があるが、使うことは出来ず、備え付けの飲み物は無いので、水を飲む場合はここのサーバから持っていかなければならない、フロントの冷蔵庫は使うことはできるが、共用なので自分の分は名前を書く必要があるし、ほかの人のものを勝手に食べてはいけない、ということと分かった。

もう一つは、部屋に関する注意。カードキーがどうのこうのと説明してくれるのだが、これもいまいちよくわからなかった。2枚カードがあって、内1枚は既に部屋の中にあるとのこと。「用途が違うのですか?」と聞いたのだが、そうではないらしい。部屋に既に1枚ある理由をあれこれ説明はしてくれたのだが、いまいちよく聞き取れない。用途は全く同じものだという。釈然としないながらも、とりあえず実物を見ればわかるだろうと、その場で理解することを諦めた。ようやくわかった、といった態度をしてごまかす。

もろもろのやり取りの後に、「大丈夫?」と心配そうに聞いてくるスタッフさん。「OKです、問題無いです」と返すと、よかったと言わんばかりに満面の笑みとなった。「物分かりが悪く、申し訳ない」などと言うと、「いえいえ、とんでもないです!」的なことを言ってもらえる。

「また何かわからないことがあったら聞いてくださいね!」

最後にそう言ってもらって、私は「謝謝!」と返す。自分の部屋は、フロント脇の廊下を歩き、突き当りを左に行ったところになる。

カードキーをかざして部屋に入る。そしてまずは、部屋を確かめる。
こざっぱりした部屋だった。角部屋で形は台形をしていて変則的だが、それなりに広さがある。8畳ぐらいだろうか。その部屋にダブルのベッドと、テーブルとソファー。それからテレビが置いてあった。交差点の角に位置するホテルなので、窓からは交差点の様子が確認できる。ただ、これは割と外からも見えてしまいそうだ。着替えるときは気を付けよう。

不思議に思ったのは、既に電気が点いており、冷房もかなり効いていること。入口の横にカードキーの差込口があったが、そこに既にカードが刺さっている。抜き取って確かめてみると、確かにフロントで受け取ったものと全く同じだった。ここでやっと、フロントでの説明に合点がいく。おそらくは、あらかじめ部屋を涼しくしておいてくれたのだろう。ありがたい。

とりあえず、荷物を下ろして、ソファに横になる。今日は移動しただけだというのに、結構疲れてしまった。あと少し休んだら、とりあえず夕飯を食べて、今日はお終いにしよう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み