27.おばちゃんにエンカウント

文字数 1,105文字

レストラン街とはいっても、ただっぴろい空間に、いくつかのお店が調理場を中心に椅子やテーブルを並べて営業している形で、なんというか屋台らしい趣きがある。単品ではなくいくつかのメニューを扱っているらしく、目当てにしていたオアチェンもちらほらメニューに見える。席もあるようだし、いったんここで腹ごしらえがよさそうな気がしてきた。それに、地上と同様に、人はまだまばらのようだった。空いている今がチャンスかもしれない。

威勢のいい呼び声が左右からかかる。立ち並ぶ店を物色しながら、どこで食べようかと思案する。

そうしてある店の前を通りかかったときである。ひとりのおばちゃんが、私の行く手に不意に立ちはだかった。なんだろうと、足を止めて目を合わせると、何事かを話しかけられた。聞き取れなかったので戸惑っていると、「エビチャーハン、オアチェン、おいしいよ」といったように、扱っている商品を日本語でまくしたててくる。あまりにも突然のことだったので、頭が働かず、あたふたしてしまう。どう反応したものかと迷っていると、まあまあ座りなさいというように、注文票の挟まれたバインダーを渡されて、さらに手を取られ手近な席に半ば強引に座らされてしまった。

普通、声だけでよびかけないか?まさか、行く先に立ちはだかってくるとは。日本でも強引な客引きで入った店でいい思いをした試しはない。でも、まあ、ここまでされないと、結局ずっと悩んだまま決めきれず、時間を浪費してしまうのが自分なので、これはこれでありだろうと思い直す。ハズレをひいたとて、それはそれで面白い経験ではないか。

さて何を食べようか。メニューを見る。机全体がメニューになっていて、40品ぐらいの商品が赤地のマス目に並んでいる。オアチェンは頼んでみるとして、他を何を頼もう。少し炭水化物が食べたいところ。迷っているとせっかちなおばちゃんは、エビチャーハンと言ってその商品を指差したりして、注文を促してくる。うんうん、ととりあえずうなづきながら、ゆっくり選びたいんだけどな、と内心苦笑する。

そうしているうちに、他の客が通りかかって、おばちゃんはすかさず確保にかかる。ただ、観光客ではなく現地の人だったらしく、すんなり入店して台湾語でなにやらやり取りした後何か麺料理を注文している。麺が美味しいのだろうか。

更に少し考えた後、すみませんとおばちゃんを呼び止める。結局選んだのはオアチェンと、ジャージャー麺のような汁なし麺、それから台湾ビールの3つだ。これとこれとこれ、と机のメニューを指差して注文する。おばちゃんは、注文票に書きこんで、調理場の方に向かって、何事かを大声で伝えた後、去って行った。
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