第３５話

　ランチを食べ終わり、フジやんは満足気に帰っていった。

　そして、ハルカさんは、向井さんが今まで作ってきた作品の整理と今後の販売に向けて打ち合わせもあるので、今日はシェアハウスにお泊りとなった。





　ハルカさん、まだ心配だしね
　お泊りしたほうが安心だわ

　ヒカルちゃんも、カレンと仲良く遊びつつ、椎名の膝の上に座ってご機嫌さんだし
　ヒカルちゃんは面食いなのね・・・

　おじいちゃん、椎名のこと羨ましそうに見てる
　自分の膝の上に座って欲しいんだな、きっと
　




「ヒカルちゃん、こっちくるか？な、優くんはお勉強あるから、ほら、こっちおいで」と、おじいちゃんが手を広げた。
　だが、ヒカルちゃんは、笑っているだけで移動しようとしない。

　なので、おじいちゃんはヒカルちゃんを抱っこしようと近づいていったが、おじいちゃんが近づいてくるとヒカルちゃんはおじいちゃんを睨みつけた。

　睨まれたおじいちゃんは、悲しげな顔をして後ずさり。
　そうすると、ヒカルちゃんは笑顔になった。




　おじいちゃん・・・
　ヒカルちゃんに、翻弄されている
　せつない！
　せつないけど、面白すぎる！！

　あら？椎名があたしを睨んでいる
　勉強してないからか？
　だってー、今日はもう勉強って感じじゃないんだよなー

　でも、椎名、いつもみたいに怒らないな・・・
　ヒカルちゃんか？
　ヒカルちゃんがいるから、いつもみたいに怒れないんか？

　ヒカルちゃん、そのまま鬼コーチの膝の上に座ってておくれ
　でも、いつかは、おじいちゃんの膝の上にも座ってあげてね




「優くん、いいなぁ。ヒカルちゃんに好かれて・・・。可愛いだろ？な、そうなんだよ。宝だな。子供は宝なんだ」としみじみ語るおじいちゃん。




　赤ちゃん好きなのね、おじいちゃん
　あたしも、可愛がってもらってたのかなー




「大さん、ヒカルちゃん、抱っこしてあげてよ」と椎名。
　ヒカルちゃんをおじいちゃんに渡そうとしたところ、足を物凄い速さで上下させるヒカルちゃん。
　イヤイヤを表現しているようだ。

　おじいちゃんの膝の上でも、ヒカルちゃんは足をばたつかせているが、おじいちゃんは満面の笑みで幸せそうだ。
「か、か、わ、わ、い、い、な、ぁ、ぁ」
　ヒカルちゃんが暴れているせいで、おじいちゃんの声が震えている。



　ヒカルちゃん、あと少しで泣きそうだなー
　あ！椎名を見た




「おれがいるとだめだな。おい、行くぞ」と椎名があたしに言った。




　え？もう終わり？
　帰っていいの？
　やったー！！！
　ヒカルちゃんのおかげやー



　あたしは、素早く帰り支度をしてシェアハウスを出た。



　うぉー！
　今日はほとんど勉強しなかった
　こういう日も必要よね
　まだ4時だから、夕飯までお家でゴロゴロできるー

　え？なんで、椎名がついてくるの？
　まだ明るいし、送ってくれなくても大丈夫なのに

　椎名って、言い方キツかったり愛想ないけど、結構、良い奴なのよね
　ちょっと変態だけど
　うんちマンじゃなきゃ、もっとモテたり人気者になるんだろうな




「何考えてんだお前？」と椎名。



　おっとー！
　椎名は妙に勘がいいから気をつけなくては

　でも・・・
　それにしても、今日の椎名の提案は良かったなぁ
　ハルカさんが泊まるのだって、椎名の提案だったし
　心配だったんだろうな椎名も
　心優しきうんちマンよ、良い仕事をしたな
　ハルカさん、しばらく、シェアハウスに泊まれればいいのにね



「ハルカさんの心配してる場合じゃない。自分の心配をしろ」と椎名。




　なぜ、わかる？
　フジやんといい、椎名といい、あたしの考えていることがなぜわかるのだ？？

　は！フジやんが前に言っていたが・・・

　ーー椎名もわたしみたいに、かなのこと、わかるんだと思う
　わかるということはね・・・
　かなのことが好きだってことなのーー

　いやいやいやいや、それはない！！




「お前、なんか勘違いしてないか？」





　してない！
　あたしはしてない！
　勘違いしてるのは、フジやんです



「お前のことを好きとか嫌いとか、そういうことじゃないからな」




　わかっておりますとも！
　あたしなんか、全然、めっそうもない！
　フジやんみたいに可愛い子とか、ね
　



「許嫁なだけだから」




　いいなずけ？
　え？ええ？
　うぉえぇーーーー！！ーーー！！！
　いーいーいーいー許嫁ーーーー？？？




「ぬぅわーーーーーーー！！」
　あたしは、叫びながら猛ダッシュして、いつの間にか家に帰っていた。