第9話

文字数 1,535文字

 長生きすることは幸せか?


 シェアハウスのみんなは、ポックリ死にたいと思ってる
 
 おじいちゃんもそのようだが、『長生き=幸せ』とも思っているような・・・

 長生きしつつ、死ぬときはポックリが一番幸せってことかな

 幸せだったら長生きもいいかもしれないけど、現在、幸せでないあたしは、長生きしなくていいと思ってる

 ・・・幸せとは???

 頭の悪いあたしには、わからんーーーーーー






「かなちゃん・・ちょっと・・・」


 おじいちゃんに呼ばれて、あたしはおじいちゃんの部屋に入った。

 家にいたときと変わらず、部屋には物が溢れているが、以前のような臭いはない。


 やっぱり、水洗トイレ付のお部屋はいいわね


 それにしても、部屋が暗い。
 カーテンを開けてないからだ。
 部屋の奥にベッドがあり、おじいちゃんがぽつんと座っていた。



 おじいちゃん、物凄く小さくなってる!!!
 あんな若造にボコボコにされたら、こうなるのも無理はない




「・・・・・、かなちゃん・・・」


 おじいちゃんが、振り絞るように声を出した。

 
「・・・かなちゃん、えー・・・あ、今日はおじいちゃんのお部屋に来ていただいて、どうもありがとう・・・・・えー・・・あー・・・」



 気まずい!!


 こういう時、どういう言葉をかけてあげればいいのかな・・・



 あれ??
 あたし、おじいちゃんと話すのって、はじめてかも



 あたしは、耳が遠くなったおじいちゃんしか知らない

 そして、そもそもおじいちゃんは口数が少なく、おばあちゃんに用事を頼むときしか話さなかったし


 あと・・・

 あたしが、おじいちゃんやおばあちゃんの近くにいると、お母さんが露骨に嫌がるので、なるべく近寄らないようにしてたからな・・・



 おばあちゃんは、幼稚園の時とか送り迎えしてくれてくれてたし、小さい時はすごく話してたけど、お母さんに気を遣ってか、最近ではあまり話さなくなってた


 それでも、おばあちゃんは顔を合わせると、「かなちゃんは大丈夫」っていつも声をかけてくれて・・・


 あたしが自信なさげで、不安そうな感じでいるから言ってくれてたんだろうな


 でも、なんて返せばいいかわからず、いっつもそっけない態度をとってしまっていた


 あたしはダメな孫だ
 そして、お母さんにとってはダメな子供


 お母さんは何でもできる人で、勉強も運動もいつもクラスで一番だったらしい


 だから、あたしみたいに成績も悪く、運動神経ゼロなのが信じられないらしく・・・


 小さい時は勉強を教えてくれたけど、全く成績の上がらないあたしに嫌気が差したようで、勉強会はなくなった

 お母さんの最後の言葉は「わからないということが、わからない」で、優秀な人には、あたしのような者の気持ちはわからないようだ


 夕飯後におばあちゃんと一緒にテレビをみてると、そんな時間があるんだったら勉強しろとでも言わんばかりに、あたしを睨んでたし・・・


 そして、毎年来ていた運動会も見に来なくなった


 毎年、ビリのあたしを見るのが嫌だったんだろう

 お父さんとお母さんの仲が悪くなったのも、あたしのせいなんだろうな・・・



「えー・・・、あー・・・」



 って、さっきだから、おじいちゃんが「えー・・・、あー・・・」を繰り返している!



「えー・・・あー・・・、・・ゔぅ、ぐっゔ・・」



 変な音まで出てきた!
 喉になんか詰まったのか?!


 とりあえず、ハーブティーを飲ませた。



 あたしが何か話せばいいんだろうけど、何を話せば・・・



 おじいちゃんは、ハーブティーを一気に飲みほし、「ぷはー・・・」と言っている。
 ハーブティーをお酒だと思っているに違いない。


 そして、意を決したように、あたしに向かってこう言った。


「かなちゃん、・・・・・みっともないおじいちゃんで、ごめんなさい」

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