第18話

文字数 2,876文字

 シェアハウス、ホッとするわー

 衝撃的な話を聞いてしまったので、心が落ち着かず・・・
 ここで癒やされてから帰ることにしよう

 でも、よくこんなシェアハウスを作れたよね

 仲の良い友達と、みんなで助け合いながら楽しく暮らし、それでもって、それぞれの家族の負担も軽減できる

 こんなの考えた、うちのおばあちゃんって、すごいわー







 シェアハウスから女の人が出てきた。
 向井さんと大竹さんが送り出している。

 その女の人は、二人より若いが、うちのお母さんよりは年上のようだった。

 そして、その女の人があたしの方にきて、「生前、さくらさんには、本当にお世話になって。でも、お葬式に行けなかったので、ご挨拶がしたくて」と話してくれた。

 なぜか、女の人はあたしに何度もお礼を言って帰っていった。




 おばあちゃんにお礼を言えなかったから、あたしにお礼を言ってくれたのね
 こんなに感謝されて、うちのおばあちゃん、本当にすごいわー





「ほら、みんな入って!お団子あるからさ、お茶しよう」と大竹さんが誘ってくれ、フジやん、椎名と一緒にシェアハウスに入った。


 リビングでお団子を食べながら、大竹さんがさっきの女の人の話をしてくれた。

 2年くらい前、うちのおばあちゃんが大竹さんの美容院でパーマをあててもらっている時に、ちょっとした事件があったらしい。

「さっきの女の人のお母さんが、うちの店の常連さんだったのね。その常連さん、80代で足も悪いから、いつも娘さんに付き添われて来てたのよ」と大竹さんが教えてくれた。

 うちのおばあちゃんがパーマをあててる日も、常連さんは娘さんに付き添われて来店したらしい。

「先にさくらちゃんが来てたからさ、カーラーを巻いてる間、二人には待っててもらってさ。それで待ち時間、常連さんが娘さんにスマホの使い方を聞いてて。娘さん、丁寧に何度も何度も同じことを教えてたのよ」と大竹さん。

 おばあちゃんのカーラーを巻き終わり、常連さんのカットを始めた時、娘さんは家の用事があるので後で迎えにくると店を出た。

「そしたらさくらちゃんが、その常連さんに、『娘さん、大丈夫ですか?顔色、悪かったけど』って言って、常連さんは『50過ぎたから、更年期かもしれないわね』って話たのね」

 そして、常連さんは、娘がいかに自分に優しいか、自慢話をはじめたそうだ。

 スマホの使い方、スーパーのレジのやり方、スイカのチャージ等など、その都度、何度でも丁寧に教えてくれると話した。
 

 「そしたら、さくらちゃんがさ、『娘さん、説明書みたいですね』って、常連さんに言っちゃったのよー」と大竹さんが笑った。



 おばあちゃん、他人によくそんなこと言えるなー




「さくらちゃんらしいわねー」と向井さんも笑っている。

「そうなのよ!それで、常連さんも、ちょっとムッとしちゃってね。そりゃ、いきなりそんな事言われたらね。ま、でも、あたしはお客さん同士、どんな話をしてもいいと思ってるのね。だから多少、揉めても良いかなって思って、そのまま話を聞いてたのよー」と大竹さん。



 普通、止めるよね・・・



 「常連さんはさ、さくらちゃんに負けじと色んな自慢話をはじめてね。『高血圧だから食生活も、薬も毎日管理してくれる』とか『一人での移動も心配だから、娘が仕事を休んで何かと一緒に出かけてくれるのよ』とかさ。そしたら、さくらちゃんが『なんで、娘さんの負担になることばかりしてるんですか?』って」

「あらー」と向井さん。

「それで常連さんが『負担って、親子なんだから、それくらいお願いしてもいいと思いますけど。あと、説明書って、あたしは娘と話してるだけです。娘とおしゃべりするのがそんなに悪いことですか?』って、怒り出しちゃってさぁ」と大竹さん。

 大竹さんは違う話題にしようと、最近の町内ゴシップ話を提供したらしいが、時すでに遅く。
 おばあちゃんはその話には乗らず、常連さんに娘さんの好きな色を聞いたそうだ。


 だか、常連さんは答えられず。


 娘さんの小さい頃の好きな色はわかっていたようだが、大人になってからのことはわからず、そして、最近、説明以外で娘さんが話したことを聞くも、娘さんから話した話題は思い出せなかったそうだ。

 「『思い出せないのではなく、娘さんのことを話してないんじゃないですか?それで、おしゃべりしてると言えますか?』って、さくらちゃんが追い詰めたところで電話が鳴ったのね。で、その電話、娘さんからで、具合が悪いから少し遅れるっていう連絡だったのよ」と大竹さん。

 常連さんは店で待つしかなく。
 そして、おばあちゃんは更に追い詰めるべく、「娘さんは仕事して時間がないのに、あなたのせいで時間が奪われている」とか、「あなたは仕事をしてなく、時間がいくらでもあるのに何で自分で調べないのか」とか、「多少、聞いても良いが、何で聞いたことを覚えようと努力しないのか」など言ったそうだ。

「かなのおばあちゃん、やるねー。あたし、好きだわ」とフジやんが言ってくれた。

 すると大竹さんが「あたしも!昔から変わんないのよー。それから、さくらちゃんが『娘さんが良い子であればあるほど、もっと気にかけてあげなきゃいけないと思いますよ。我慢して、頑張りすぎているから具合が悪くなったんです。更年期だけではないですよ』ってトドメを刺したところで、娘さんが到着して。さすがのあたしもホッとしたわよー」と言った。




 常連さんもホッとしたに違いない・・・

 


 「それでさー、娘さんがお会計しているときに、常連さんが娘さんに『無理しないでね、倒れないでね』って、心配そうに言ったのね。そしたら、さくらちゃんが、『心配しているような言葉を言ってますけど、自分のために言ってますよね』って言ってさー。さっきトドメ刺したばっかりなのに」と大竹さん。

 常連さんは、そんなことはないと言ったが、娘さんは泣き出したそうだ。

「嗚咽っていうの?あたし、びっくりしちゃってね。本人も驚いてて過呼吸気味になっちゃって、落ち着くまで時間かかったのよ」と大竹さん。

 娘さんは落ち着いた後も、なにか話そうとすると涙ぐみ、なかなか話せなかったらしい。

「でも娘さん、頑張って話してくれたのよ。『 お母さんから心配するような言葉をかけられた時に、なぜかいつも傷ついていたんです。それがどういうことか、やっとわかりました』って。」と大竹さん。

 傷つけるつもりがない常連さんは、意味がわからなかったようで、おばあちゃんが『無理しないでね、倒れないでね』のその先、何を言おうとしてたのかを聞いたそうだ。

 常連さんは、その先の言葉を言おうとしたところで言葉がつまった。


 「『あなたが倒れたら、あたしはどうすればいいの・・・』ですよね。『あなたがいなくなったら悲しい』ということではなく」と、本当にトドメを刺したらしい。

 


 心配はしてる
 でも、その心配は自分に向かっていた
「心配」を意味する言葉を使っているから、その矢印がどちらに向いてるか、本人も周りも気が付かない・・・

 ただ、娘さんの心は気づいていた
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