第21話

文字数 3,008文字

 おじいちゃんがシェアハウスに引っ越して、2ヶ月ほどたった


 おじいちゃんないなくなってから、土日になると家の空気は、はりつめたようになっていた

 だが、最近はどんよりしている・・・

 本日は土曜日で天気も良く、そろそろ梅雨あけだというのに・・・


 シェアハウスは、雨の日でもどんよりしてないから天気のせいでもない

 空気清浄機とかで、家の雰囲気も変えてくんないかなー
 







 シェアハウスからお父さが帰ってきてないらしく、お母さんは鉄仮面状態になっていた。

 こんな時は、シェアハウスに逃げるが一番。
 あたしは勉強をしに行く体で、家を出た。

 ほんの少しだが成績が上がったので、あたしがシェアハウスで勉強することは許してくれているらしい。

 お母さんは、椎名の頭の良さを認めてるんだろう。
 塾にも通わず、ずっと学年トップの椎名を、知らない親はいない。





 あたしも椎名みたいだったら、お母さんどの関係はちがったのかもなー





 シェアハウスに行くと、お年寄りの四人がリビングにいた。

 草太さんは庭でカフェの準備をしていて、椎名は来ておらず。
 お父さんの姿もなく、すれ違いで帰ったようだった。


 向井さんが、満面の笑みであたしに近寄ってきた。
 そして唐突に、「パルクールを習ったらいいと思うの!」と言った。


 え?
 おばあさんが、パルクール??
 なにゆえに???



「今の世の中、いつ、誰に襲われるかわからないでしょ。死ぬのは怖くないのね、わたし。でも、やられっぱなしなのはいやなの。それに、老人だけで住んでいるのだって、ターゲットにされやすいと思うのね。だから、みんなでパルクールを習ったらいいと思うの!」だそうだ。






 向井さんが壁を自力で乗り越え、隣のビルに飛んで移動したりするのか・・・・・?

 70過ぎのおばあちゃん達がやったらカッコいいけど、想像できん!!





「フミちゃんは体操クラブだったし、テイちゃんはバレー部だったからからできるかもしれないけどさ、あたしは無理よ」と大竹さん。

 T子はというと、「あー・・・、私は魔法があるので・・・」と、パルクールをやりたくないような感じを全面的に醸し出していた。

 いつものT子なら、のってきそうなのにと思っていたら、大竹さんが小さい声で「最近、大とデイサービスに行ってね、リハビリ?リクリエーション?みたいので、スポーツ吹き矢っていうのをやったらしいのよ。そしたら、大に大負けたらしいのね。それが悔しかったみたいでさぁ、今は消極的モードなのよ」と教えてくれた。

 大竹さんとうちのおばあちゃん以外、みんな運動神経が良いらしく、その中でもT子が一番負けず嫌いだそうだ。


 「大なんて、半分は車椅子での生活だしさ。車椅子でパルクールなんて無理でしょ」と大竹さんが言うと向井さんが「でも大ちゃんは、サッカーをやってたし、すごく運動神経いいから、車椅子でやれないかなー」と、物凄いことを言い出した。



 向井さんは、相当やりたいらしい・・・

 あと、おじいちゃんは、サッカーで国体までいったらしい
 知らなかった!




 「フミちゃんはさ、『しなやか護身術』をやってるんだからさぁ。それで充分じゃない?」と大竹さんが言った。




 『しなやか護身術』って?




「『しなやか護身術』は主に関節技で接近戦じゃない。それだと、"おととい来やがれ!"が、決まらないのよ」と向井さん。




 おととい来やがれ?



 「ふふふ。やっぱり・・・、やっつけたあとに、一言、言いたいじゃない?・・・わたしは言いたいのね。"おととい来やがれ!"は、ある程度の距離があるから、かっこいいと思うの。近くで言っても、様にならないでしょ?」と向井さんが言った。

 大竹さんが「えー、そんなことないんじゃない?フミちゃん、やってみてよ」と言うと、向井さんが「じゃあ、カナちゃんいい?」と言い、あたしの手を取った。




 「いたぁーーーーーー!!!!」とあたしの断末魔の叫びとともに、向井さんが微笑みながら、そして、とても上品に言った。




 「おととい、・・・来やがれ」




 なんじゃ、それーーーーー
 決めゼリフじゃなく、話しかけてるようにしか見えないーーー!



 一連の動きを見ていた大竹さんは、「かっこいいって感じじゃないねぇ。あと、カナちゃんの声が大きくて聞こえにくいなぁ」と言った。




 だって、ものすごく痛いのですよ・・・




 「かなちゃん、ごめんなさいね。これでも、弱くやったんだけど・・・」と向井さんが何回も手を擦ってくれた。

「フミちゃんは、パルクールでさっそうと現れて、関節技を決めたあと、パルクールで距離をとって、"おととい来やがれ!"って言いたいんだね、うんうん・・・」と大竹さんが考えながら言った。


「そう!そうなの。私も今まで何回かオレオレ捕まえてるじゃない?パルクールをやったら、もっと、役に立てるんじゃないかなと思って!」と向井さんが目をキラキラさせて話した。

 向井さんは、これまでに3回、特殊詐欺の犯人を捕まえるのに協力しているらしい。


 大竹さんは真剣な面持ちで、「テイちゃんも、フミちゃんも、感謝状もらって・・・。あたしだってさ、死ぬまでに1枚は欲しいんだよ。だから、あたしは、"頸動脈、切ったろか!"かな」と言った。




 なにそれ!




 「美容師って、そういう勉強するのよ、カミソリ使うから。だから、やっつけたあと、"頸動脈、切ったろかって!"言うのが良いかなと思ってね」と大竹さん。

 「それ良いわね、かっこいい!カミソリを持って、ポーズ決めてね!!」と仲間が増え、喜びに満ちた向井さんが言った。

 そして、早速、大竹さんはポーズをとっている。

 


 武器もってるよね
 それ、逆に罪にならない?




 「正当防衛だから、大丈夫じゃないか」と、椎名が言った。



 いつの間に!!




 「そうよ、そうだよね!多少、切ってもいいくらいだよね!」と大竹さんが言うと椎名が「過剰防衛にならない程度に」と釘を差した。

 おじいちゃんはというと、ずっと何かを考えている様子で嫌な予感しかない・・・・・。


「おれは、サッカーだから・・・」



 おじいちゃん、お前もか!!




「大ちゃんは、吹き矢じゃないの?上手なんでしょ?」と向井さんがいうと、「スポーツ吹き矢は武器じゃないんだよ。だからそういうのに使っちゃいけないんだ」とおじいちゃんが言った。






 サッカーボールだって、武器として使っちゃためだろう!?




 おじいちゃんは相当、スポーツ吹き矢が気に入ったらしく、前は、デイサービスを嫌がっていたが、今では、週3回も行っているとのことだった。

 そして大竹さんは、新しいカミソリを買おうか悩みだしてる。




 みんな、楽しそうだなぁ
 こんなのお母さんがみたら、怒り出すに違いない・・




 猫のカレンがニャーと鳴いたので、そっちを見ると、お父さんが居た。
 寝過ごしたらしく、2階のお泊り当番部屋から降りてきて、リビングの入口に立っていた。


 

 まずい!
 今の話、聞いてたかも!

 あっ・・・
 聞いてたとて、お母さんと話さないから大丈夫か

 お父さんは、おじいちゃんのことなんて、どうでもいいんだろうし・・・




 向井さんがお父さんに「起こすのも悪いかなと思ってね。これからお昼だけど、一緒にどうかしら?」と声をかけたが、お父さんは用事があるからと帰っていった。
 


 おじいちゃんと一緒に居たくないだけで、用事なんてないんだろうな・・・
 お父さんの反抗期は、今も続いているのね
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