第31話

文字数 2,917文字

 夏休みもあと3日で終わってしまう
 今年は、あっという間だった
 

 一人でゴロゴロするのも20日間くらいしかできなかったしーーーーーー

 高校に行ったら、夏休みは一人でゴロゴロするんだから!
 誰にも邪魔されないんだからー!!




 本日も、椎名講師による受験勉強。
 のはずだったが・・・。

 T子が、毎年恒例の人間ドックで検査入院とのことで、椎名は付き添いするらしい。

「しばしの間、皆さんとはお別れです。わたしは、妖精の修行に行ってまいります」と、玄関で挨拶をしている。



 人間ドックを修行だと言って連れて行くのね
 斬新!



 大竹さんは、「バリウム飲んでやる検査、結構、体力いるもんね」と言い、向井さんも「そうそう。台の上で何回転もしたり、ずり落ちないように棒に捕まって耐えたりとかね。あれは修行よね」と話した。



 体の検査をしに行くのに、疲れそう・・・




「わたし、すぐに戻って参ります。そして、レベルアップして、皆さんに恩返しを・・・」とT子。




 そうだった!
 あたしも恩返ししてもらえるんだった



「ばあちゃん、もう行かないと。おじさん怒るから」と椎名が強制的にT子を連れ出した。


 人間ドックは、草太さんのお父さんの病院でやるのだそうだ。

 二人を送り出したあとに、フジやんがやってきた。

「草太さんにランチ会に招待されたんだー。かなも受験勉強でいるだろうと思って、早く来ちゃったー。鬼コーチ、どこいったの?」

 フジやんが言う『鬼コーチ』とは椎名のことだ。
 椎名は付き添いで出掛け、あたしはその間、自習の命を受けていることを説明した。


 そこへ、草太さんもやって来た。
「夏休みにお手伝いしてくれた人を招待してるんだ。みんなにお礼がしたくて。明日は、チィちゃんとかなちゃんパパを呼んで、アフタヌーンティーの会をやるんだよ」と草太さん。



 お父さん、さぞ嬉しかろう
 うちのお父さんを招待していただきありがとう、草太さん

 でも、お父さんがアフタヌーンティー会に参加って、笑える
 明日は受験勉強ないけど、見に来ちゃお



「シェアハウスのみんなとかなちゃんにも食べてもらいたいんだ」


 あたし、何もしてないけど・・・


「味の感想を聞きたいから。モニタリングっていうの?そのつもりでいてねー。あと、かなちゃんが気に入ってくれるものって、人気出るんだよね。だから参考にさせてもらってる」




 そういえば、草太さんのお料理を食べてる時、よく目があっていた
 観察されていたのね・・・



 草太さんは、これから仕込みに入り、お昼までには完成予定とのことだった。
 おそらく、凝りに凝って、1時間はオーバーするだろう。

「草太さん、料理してるとストレス解消できるんだって。でも、お店だと自分のペースで作れないから、大変だったみたい。本当は31日まで営業するらしかったんだけど、疲れちゃったんだってー。すごいお客さん来てたもんね」とフジやん。




 ストレス解消が料理なんて、素晴らしい!!
 ずっと、近くにいたいわぁ

 あー、今日はゆったりした時間が流れてて、最高!

 フジやんもいるし、美味しい料理もいただけるなんて、ここは天国かいな!!





「自習だと言ったはずだが・・・」と、怒りのこもった鬼コーチの声が。




 あたしの背後で鬼が仁王立ちしている
 いつの間に!
 あたしとしたことが、全然、気付かなかった

 あと、戻ってこないのではなかったか???



「ばあちゃん送る間、自習と言っただけで、戻って来ないとは言ってない。自分の都合の良いように理解するな!勉強始めるぞ」と、椎名はすぐにテキストを用意した。



 ううう・・・
 地獄やー

 


 あたしを哀れに思ったのか、フジやんが「かなの消しゴム、こんなに小さくなってる!勉強したね、頑張ったねー」と励ましてくれた。

 それを聞いたおじいちゃんは、「じいじが買ってきてやろうか?おれ、今から100均に行くから」と言ってくれた。


 おじいちゃんは電動車いすを買ってから、ほぼ毎日、100均に行くようになっていた。
 しかも、何軒もハシゴしているらしい。



「気分転換に、一緒に買いに行こうよ!」とフジやん。

 椎名が、「気分転換ってまだ何もしてないだろ・・・」というのを聞かずに、「それに、消しゴムがこんなに小さいんじゃ、勉強進まないよー」とフジやんが言ってくれて、みんなで100均に行くことになった。


 フジやん、神ーーーー
 それに、フジやんとお買い物
 うれし~!

 椎名もフジやんには弱いらしく
 だって可愛いもんねー



 100均に着き、あたしとフジやんは文房具のところに行き、おじいちゃんと椎名はDIYコーナーに行った。

 しばらくすると、おじいちゃんの声が聞こえてきた。
 そして、その声はどんどん大きくなり、心配になったのでフジやんと見に行った。

 おじいちゃんは、若い女の人と話していた。
 
 「だから、赤ちゃんはどこにいるの?」
 「き、き、今日は連れてきてませんから・・・」
 「そんなことない。来たときにおんぶしてたじゃない」

 女の人はスウェットを着て、髪の毛を一つに束ねている。
 おそらく近所の人だろう。

 お店の人も心配そうに、二人の話に入ってきた。
 「大さん、見間違いじゃないの?」とお店の人がおじいちゃんに向かって言った。



 お店の人に、名前知られてんのかい!



 「いや、見たよ。いつも連れてるしね」とおじいちゃんが言うと、女の人は「リュ、リュ、リュックしょってるから、そう思ったんじゃないですか?」と話した。

 椎名が小声で「フジやん。女子トレイ、見てきてくれ」と言い、「了解!」と素早くフジやんがトイレへ。



 フジやんって呼ばれてるけど・・・
 緊急時には、仕方ないか



 あたしも女子トイレについて行ったが、誰もいない。
「ここじゃないのかな・・・」とフジやん。



 あれ、でも、なんか音がする
 掃除用具入れのとこかな?



 あたしが、そこを開けると、赤ちゃんがいた。
「かな、すごい!よくわかったね」とフジやん。




 こっちを見て、物凄く笑ってる
 ご機嫌さんで、かわいいー!
 実写版、金太郎って感じ
 おしゃぶりを、あたしに差し出してる
 くれるの?



「かな、椎名に言ってくるから、赤ちゃんお願い」とフジやんはトイレを出た。


 赤ちゃんを抱っこすると、下にはカバンが。
 おむつやミルクが入っていていた。

 その荷物も持ってトイレから出ると、フジやんがちょうどこちらに戻ってきていた。

 外で待つよう指示があったようで、二人で外に向かった。

 でも、現場が気になったので、移動しつつ見ていると、椎名がおじいちゃんに何かしら合図をしていた。

 その合図を受け、おじいちゃんが、「すみません、おれの見間違いだったみたいだ。お詫びに、コーヒー奢るから一緒にい行こう」と女の人に言った。

 女の人は慌てた様子で、「い、いいい、いやです。あ、ああ、あたし帰ります」とおじいちゃん達から離れようとした。

 それを椎名が体で止めた。

 「いや、行きましょう。後悔しますよ」と椎名が言うと、女の人は困ったような、泣きそうな顔をし、観念したようで一緒に移動してきた。

 店の外で合流すると、女の人は、赤ちゃんを見て泣き出した。

 みんな、無言でシェアハウスに向かった。
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