第３８話

　シェアハウスのリビングに、ヒカルちゃんとおじいちゃんがいた。
　あと、猫のカレンも。

　小上がりにはオモチャがいっぱいおいてあり、おじいちゃんが100均で買ってきたようだ。

　ヒカルちゃんは、真剣な表情で積み木をやっている。
　そして、そんなヒカルちゃんを見て、おじいちゃんは、静かに、だが物凄く嬉しそうに笑っていた。
　自分が買ってきたオモチャに夢中なのが、嬉しいのだろう。
　カレンも、ヒカルちゃんの積み木の邪魔をしないようにおとなしく見守っている。

　シェアハウスには、幸せな時間が流れていた。





　あー、こんな幸せな空間で、あたしは勉強しなきゃいけないのか！
　ヒカルちゃんは積み木に夢中で、椎名に気づいてないしなー
　駄々こねて、椎名に抱っこしてもらえばいいのに

　でも、そうすると、おじいちゃんがさみしくなっちゃうか・・・
　しょうがない、勉強するかー！！




　観念して勉強しようとしたとき、「ぅう！あー、あー！」とヒカルちゃんが騒ぎだした。
　積み木がうまくいかなかったらしい。
　すると、廊下の方から、慌ててハルカさんがやってきた。





　あれ？
　ハルカさん、髪の毛の下の方、赤くなってる
　そして、スウェットじゃなく、着物をきている
　なんか、カッコいいーーー！！！






「カッコいいでしょ？ハルカちゃん、綺麗だからボブにして、裾カラーも入れたのよ」と大竹さん。
　どうやら、向こうの部屋で、ハルカさんの髪の毛を切ってきたようだ。

　そして、向井さんが「ハルカちゃん、ボブにしたから、着物似合うんじゃないかなぁって思って、着てもらったの。本当に素敵よね」と嬉しそうに話してくれた。

　そう言われたハルカさんは、恥ずかしそうにしていた。





　ハルカさん、本当にキレイだわ
　あと、凛とした感じがする





「み、み、・・・皆さんに、・・コーディネートしてもらって、なんか、少し・・・じ、じ、自信が持てた気が・・・・」とハルカさんが言った。





　よかったよー！！！




「ボブカットって凛とした雰囲気になるし、個性的なカラーが入ると、なんか強くなった感じするよね？」と大竹さんが言うと、ハルカさんが頷いた。





　魔法だわね！
　大竹さんも、向井さんも、魔法使いだわ！！





「おれもカラー入れようかな・・・」と椎名が独り言を言っている。





　うんちマンよ
　これ以上、強くならないでおくれ！！




　抱っこされたヒカルちゃんは、ハルカさんの赤い髪の毛を不思議そうに見ていた。

「ハルカさん、今日も泊まっていくんだろう？」と、おじいちゃんが聞いた。
　よほど、ヒカルちゃんと遊びたいらしい。

「い、い、いえ、・・、そんなにお邪魔しては・・・」とハルカさん。
　そう言われて、おじいちゃんは、すごく残念そうな顔になった。

「こんちはー、ハルカちゃんいる？」と玄関から声が。
　その声は、大竹さんの息子の康夫さんだった。

「ハルカちゃん、すげー、きれいじゃん！母ちゃん、やっぱ上手な」と康夫さんに言われ、大竹さんも嬉しそうだ。

「あ、ハルカちゃん、悪い！ちょっと相談乗ってくれないかな。ハルカちゃんが作ったラッピングの画像を商店街の雑貨屋に見せたらさ、気に入っちゃってさ。自分の店用に、作って欲しいって言うんだよ。いまから、どう？」と康夫さん。

　ハルカさんは、突然のことでびっくりしていた。

　大竹さんが「ごめんね、ハルカちゃん。いきなりそんなこと言われてもねぇ。でも、その店、見に行ってみない？あたし達も一緒に行くから。それで、家まで送るわよ。何かあったら、あたし達が守るから大丈夫。それに、この子、もうおじさんだけど、元ヤンキーで元総長だから安心よ」と言って笑った。

　康夫さんも「ハルカちゃんとヒカルちゃんは、俺が守る！だから、俺を助けてもらえないかな・・・」とハルカさんに言った。





　二人ともやさしいなぁ
「あなたのためを思って」とは言っていないが、めっちゃハルカさんのために言ってるのがわかる

　本当にその人のために言ってる時は、「あなたのためを思って」なんて言わないもんね・・・
「あなたのためを思って」は、かなり自分のためなのよねー
　ま、自分のためでも良いけどね

　二人は、ハルカさんに仕事をさせて、自信を持たせようとしてる
　また、『きっかけ』をつくってるあげてるのね





「あたしも行ってみたいな・・・」




　は！
　心の声がもれて、口からでてしまった
　あ、椎名が見てる
　気づかれた、まずい！




「よし、じゃあ、みんなで行こうよ」と椎名。




　えー、なんかやさしいじゃん！
　魔除けの札になってあげてるから？




「は、、はい。・・・つ、つ、連れて行ってください」とハルカさんも乗り気になったので、みんなでお出掛けすることになった。