第11話

文字数 2,199文字

「人間、諦めたら終わり」

 あたしなんか、諦めっぱなしだから、終っているんだな、人間として・・・


「諦めが悪い」とも言うけど、そっちの方が人間力あるよね、きっと






 おじいちゃんは自分の部屋を出て、リビングに座っている椎名のそばに立った。

 おじいちゃんが椎名を見つめるも、椎名はおじいちゃんを見ずに無表情。
 まだ、怒っている様子。


 そんな椎名を見て、おじいちゃんは、どんどん険しい顔に・・・
 小脇に抱えられたエキゾチックショートヘアのカレンと同じような顔になっている。


 両者何も発せず、緊張感漂う中、カレンが一言「ニャ~」と言った。

 すると、続けておじいちゃんが言葉を発した。



「お友達になってください!」と、おじいちゃんは、椎名に頭を下げた。



「おー」と、どよめく観衆。
 観衆と言っても、大竹さんと向井さん、そして草太さんだが。



 また、カレンが「ニャ~」というと、おじいちゃんが「こんな年寄と友達になんかなりたくないだろうが、でも、友達になってほしい。なってください。」と続けた。


 さっき、椎名が自分に対して、諦めずに色々言ってくれたのが有り難かった、そして、みっともない人間になっている事を教えてくれたと、おじいちゃんはお礼を言った。



「誰の意見でも同じように聞けないといけないのに、さっきの俺は、子供に言われたと腹を立てた。そういう大人が一番みっともない。そう思ってたのに、俺はそんな奴になってた。俺が弱虫なのはしょうがないし、器の小さい男だということもわかってる。大した人間じゃないのはわかってる。でも、人を区別するような人間になりたくない。」


 おじいちゃんがそう話すも、椎名は何も答えず。



 カレンがまた、「ニャ~」と言った。
 そして、また、おじいちゃんが話し出した。


 そういうシステムなの?



「こんなみっともない奴に、とことん付き合ってくれた。諦めないで言ってくれた。数々の失礼な言動、本当に済まなかった。申し訳ありません。」


 みんな、椎名の反応を気にしているが、椎名は無言のまま。


「ニャ~」
「やっぱり、こんな年寄と友達になんかなりたくないか・・・・・。でも、すまんが俺は諦めない。友達になってもらうまで、何回でもお願いする!」


 おじいちゃんがそう宣言するも、まだ、椎名は話さない。




 この空気感、うちの家とおんなじ
 あー、しんどい
 なんで、あたしの行くところは、こういう感じになってしまうのだろう・・・




「こんなジジイで申し訳ないが、お友達になってください」

 おじいちゃんは、何度も何度も椎名に詫び、そしてお願いした。



 すると、椎名が急に立ち上がり、やっと話した。




「勝手に俺の気持ちを作るな」
 


 椎名の気持ち?



「俺は、友達になりたいと思う人と友達になる。年齢なんて気にしていない。」


 椎名にそう言われ、おじいちゃんは、また謝った。



「本当に重ね重ね申し訳ない。俺みたいなのが、人の気持ちを想像するなんて、100年早い。俺が想像できる範囲の気持ちしか想像できないのに、べらべらと人の気持ちを想像するなんて、俺は!素直に、ただ、友達になってほしいと言えばいいだけなのに・・・。へりくだった物言いをしてみせているだけで、逆に横柄というか、君に対して失礼な物言いになってしまっていた。深くお詫び申し上げます。」等々、椎名に対して謝りまくっている。



 おじいちゃん、えらい
 あたしだけでなく、椎名にも素直に、そして、ちゃんと謝ってる

 こんなに素直なおじいちゃんと友達にならないなんて
 椎名よ!お前は、それでも人間か!!



「それに、もうすでに友達だしな」



 え!?
 椎名よ、すでに友達とは?



「さくらさんと約束したんだ。さくらさんから、あんたと仲良くしてやってくれって言われてたんだ。すごく頑固だけど、物凄く良い人だからってさ。」

「あいつが、そんなことを・・・」と、おじいちゃんは、そう言って下を向いた。
 泣きそうになるのを我慢する子供がやるような感じで。

 「俺は、あいつのためにも、もっともっと、もっともっと、まともな人間にならないと・・・。あいつが、その機会をつくってくれたんだから」とおじいちゃんは涙をこらえて言った。


 おばあちゃんは、おじいちゃんのこと、本当に好きだったんだな

 まあ、体の不自由なおじいちゃんと離婚もせずに、面倒見てきてるんだから、そうなんだろうけど、全然わからなかった

 わかんなかったけど・・・、こういうのが愛っていうんだな、きっと



「さくらさんが、年寄の頑固は本当に何を言っても聞かないから、何を言い返してこようが、こてんぱんに言い負かすようにって言われてたんだ。あと、あんたはとにかく頑固だからって。だから遠慮せずに、息の根を止めるくらいやっちゃっていいって。まぁ、友達として、いろいろ言ったまでで」


 おばあちゃん、息の根って・・・
 愛では・・・?
 それとも、これが愛なのか?

 また、そう言われたからって、椎名よ
 あそこまで言うかね、ふつう・・・
 では、さっきのは喧嘩ではなく、意見だったのか?


「それでこそ、あいつだ!そうだ、こてんぱんにやってくれ!」とおじいちゃん。

 本当にー??
 そういうもんなのかね?


 二人は、お互いになんと呼び合うかを決めた。
 優くんと大ちゃん、そう呼びあうらしい。

 これで、二人は友達になった。


 そして椎名が、「さあ、はじめるか」と言った。

 椎名よ、何をはじめるのだ???
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