第32話

文字数 2,049文字

 今日は特別、草太さんのハーブティーが美味しい

 気まずいと言うか、緊張感漂う空気を少しだけ、まろやかにしてくれる

 ような気がする・・・





 赤ちゃんの名前はヒカルくん。
 いまは、リビングの小上がりで、すやすや寝ている。
 とっても健康そうで、ぼっちゃり、つやつやしている。

 お母さんはハルカさん。
 とても綺麗な人だが、かなり痩せていて赤ちゃんとは対照的。

 ハルカさんは、半年前くらいから一人でヒカルくんを育てているのだそう。

 フリマアプリでなんとかやってきていたものの、最近売上が良くないらしい。
 お金も尽きてきて、先行きが不安になり、赤ちゃんをトイレに置き去りにしてしまったとのことだった。


 向井さんが「保育所付きの働き場所とかないのかしらね?商店街で、そういうところないの?」と大竹さんに聞くと、「保育所付きはないかもしれないけど、おんぶしながら店番ならあるかもしれない。そういう感じで働ける場所があればいいわよね?」とハルカさんに聞いた。

 ハルカさんは、固まったまま話さなくなった。

「働きたくないとか?」とフジやん。

 するとハルカさんが、「は、はは、働きたいです、働きたいですけど・・・」と言い泣き出した。
 子供が物凄く泣いてしまった時に、過呼吸気味になるくらいまで泣いた。

「・・・ひ、ひひ、人が・・・怖くて・・・」と、ハルカさん。


 ヒカルくんを産む前に仕事をしていた時、職場でいじめられてたらしい。
 いじめは、ハルカさんが結婚してからで、不倫してるとか、あることないこと言いふらされていたようだ。

 旦那さんも同じ職場だったが、いじめは女子の間でされていたので気づいていなく、心配させないように言っていなかった。
 
 そして、いじめをしていたのは、ハルカさんの先輩。
 明るくてすごく良い人に見えていたそうだが、その先輩が言いふらしているのを見てしまったのだそうだ。

 フジやんが「その先輩、ハルカさんの旦那さんが好きだったんじゃないですか?」と聞くと、ハルカさんが頷いた。
 そして、先輩よりハルカさんの方が出世すると、更にいじめが。

「そういう女の人、いますよね。男の人は、まったくわからないみたいですけど!」とフジやんが言うと、大竹さんも「男の目は節穴だからね。また、そういう女の子って上手いのよ、立ち振舞が。だから、男だけじゃなく女の人も騙されちゃうことあるわね。みんな、その人の言ったことを信じちゃってさ。妙に自分に自信があるのよね、そういう子って」と話した。

「嘘が上手いのは、自信を持って話すからか!」
「そうだと思うよ。そういう子って、可哀想なくらい嘘が上手いのよね」
「可哀想?」
「うん。だって、嘘が上手くなければ、いじめとかも上手くいかないじゃない。ある意味、可哀想なのよ」



 ほんと、悲しい才能だな
 それとも、努力して上手くなってしまったのか・・・




 「嘘で周りを固めて、誤魔化せる自信はあるんだろうけど、自分は嘘だってわかってるから自信がない。そういう感じなんじゃないかね」と大竹さんが話すと、フジやんが「なんか、納得です。きっとそうですね」と大きく頷いた。



 フジやんと大竹さん、話が止まらない
 この二人も、嫌な目にあったことかあるのかも・・・
 きれいだもんね
 女を敵に回すと恐ろしい




 ヒカルくんの出産後に、旦那さんの浮気が発覚。
 浮気相手は、いじめをしていた先輩だった。

「信じられない!やっぱ、男の人の目は節穴だわ」と、フジやんが激怒。

 ハルカさんはストレスから吃音になり、離婚をして仕事も辞めたそうだ。

 離婚後は、貯金を切り崩しながらフリマアプリで不用品などを売って生活していたが、なぜか、例の先輩が購入。
 そして、レビューに低評価をつけられ売上が落ちたそうだ。
 
「その先輩、やっぱ自信がないから、ハルカさんのこと徹底的につぶしにきてるんですよ。むかつく!」とフジやんが怒りまくっている。

「でも、なんでハルカさんが、そのフリマっていうのをやってるのがわかったのかしら?」と向井さんが言うと、フジやんが「いろんなルートを使って探し当てたんですよ。女の執念ですよ」と遠くを睨みながら言った。


 フジやんの言う通りであれば、やっぱり、その先輩は努力家なのかもしれない
 その努力、もっと違うことに使えばいいのに・・・



 大竹さんがハルカさんに、優しく話しかけた。
 「人が怖いっていうより、その先輩が怖いのよね」
 「・・・こ、こ、怖いと思いました。それから、こんなことくらいで、こ、ここ、怖がっている自分が、・・・じ、自分が・・・こ、こ、こんなに弱いなんて・・・・・、そそ、それが、いいい一番怖かった・・・」
「子供を守るために、親は強くなきゃいけない。だけど、自分の弱いところに気づくと、物凄く不安になるわよね。怖くて耐えられなくなる・・・」
 「わ、わわ、私なんか、・・・いないほうが・・・」
 「だから、ヒカルくんおいて自殺しようとしたの?」



 え?自殺?



 ハルカさんは、ただ、黙ってヒカルくんを見ていた。
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