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文字数 1,389文字
一体あと何回否定したら信じてもらえるのか。
あたしはただの平凡な女子高生だということを。
「……異界の者の気配は、同世界の者にしか感じられないはずだ。リズが言うなら間違いないはずだが……」
「そうですね。仮に我々と同じ“人間”であるならば、現れた際に少なくとも私が気付いたはずです」
「ああもうだから、人間だってば! ただの、フツーの、一般人!」
「まさかおれ達に正体を偽っているのか?」
「……姿形くらいなら偽れども、自らの正体を否定しているとは考えにくいですが……」
ダメだ、この人たち。全く話を聞いてくれない。
万が一あたしがそのナントカっていう神さまだったり武器だったと結論付けられたりしたら…それはつまり、どういうことなんだろう。どうなるんだろう。まさか戦えとでもいうのだろうか。相手すらもわからないけれど。
そもそもそういえば、なんでシア達はそれらが、神さまだとか武器が必要なんだろう。
『アンタの名前は?』
ふ、と自分に影が落ちた気がして顔を上げる。だけどそこには誰もいなかった。
シアとリシュカさんはまだ討論中だ。だけど声は、確かにすぐ傍からした。
『アンタが違うというなら、きっと違うんだろう。ではアンタの名前は?』
声の主の影はまだ、部屋の奥のベールの向こう。
やっぱり綺麗な、声。
「えっ…っと、マオ、です……碓氷真魚……」
『そうか、ふぅん、なるほど……』
まだ尚討論しているシアとリシュカさんを置いて、こちらは対照的に楽しそうな声色。くつくつと笑う声が泡になって浮かんで消える。
『アタシはリズ。昔はいろんな名前で呼ばれてたが、今はこれが一番気に入っている。マオ、アンタはこの世界の人間ではないんだね?』
「は、い……それは確実に、違います……あたしの世界では、魔法や神様なんて、存在しないから」
『へぇ、それは興味深いね』
「あなたも、人間ではないって聞きましたけど……神様、なんですか……?」
あたしの問いに、リズさんがベールの向こうで笑うのがわかった。
だけどそれは先ほどまでの面白そうな笑いではなく、背筋の凍るようなもので。
『確かにアタシは人間ではない。だが神様でもないね。もはやこの世界にアタシを形容できる言葉は無いだろう』
--寒い。
肌で感じることができた感覚はそれだけだった。
怒りなのか哀しみなのか憎しみなのか。想像の及ばない感情が、この空間に満ち溢れている。
身動きひとつできないあたしの前に、カツンと靴音を響かせてシアが現れた。その背に漸くごくんと唾を呑む。
「リズ、落ち着け、お前が暴れると本当に城が壊れてしまう」
『ふん、そうできないようお前が居るんだろう。むしろアタシを押さえられるのは、もはやお前ひとりしか居なくなった。忌々しい血族は』
「リズ様……どうか、心をお鎮めください……今日はジェイド様も疲れておいでです」
今度はリシュカさんがシアの前にその身を滑り込ませ、深く頭を下げた。
僅かな沈黙後、シアが浅く息を吐いたのと同時にふ、と部屋の空気が軽くなるのを感じた。
『まぁ、いいさ。マオ、残念だけどアンタがトリティアかイデアなのは間違いない。それでもアンタが違うと言うのなら……アンタのその体かもしくは魂のどこかに、ヤツらは居るんだろう』