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文字数 1,623文字


「……“それ”を先に反対していたのはお前だぞ、リシュカ」
「あの時とは状況が違います。“実証”はされてしまいました。今はもうなりふり構っていられないのも事実です。今我が国に必要なのは、アズールフェルに対抗し得る絶対的な神の力です」

 少し離れた先にいるリシュカさんを、シアは半ば睨むように呟く。
 リシュカさんは変わらず冷静だ。表情がいまいち読めない。

「本来、“神”と契約を交わせるのは王族だけ。それがシェルスフィア王族及び国民に根付いてきた認識です。ですがこの娘とそしてアズールフェルの魔導師……このふたりは王族ではない。にもかかわらず、契約を交わしてしまった」

 そうか、確かに以前シアはそんなことを言っていた。
 神を()べるのは王族だけだと。

「そっか……なんであたし、契約できたんだろう……」

 それに、リュウもだ。共通点といえばふたりともこの世界の人間ではないということ。でもそれが理由になるのだろうか。

「ふん、簡単だ。それが、嘘だからだ」
「……嘘?」
「神を()べるのは王族だけじゃなかったということだ。まぁ少なくとも先の王族達と契約を結んできた神々は代々受け継がれてきたものだから、血族にしか契約が継げないというのは真実だろうが。ただ、海にいる他の神々との契約に関しては、王族以外の才や資格ある者であれば契約可能だった。だが国はそれを制約する必要があった。神という絶対的な力を王族以外が持つことを許すわけにはいかなかったからだ。だから、永くそう認識付けてきたのだろう」
「もうこの国にジェイド様以外の王族は居ません。しかし有能で才ある魔導師は多くいます。先手を打つべきです。考えることは、あちらも同じでしょうから」
「は、だろうな。そもそも何故シエル自身が契約を交わしていないのか不思議なくらいだ。神というのは気まぐれだ。相性もあるのだろうな。だったらおれが行く。おれが新たな神を従えてみせる。それが当然だ」
「なりません。今ジェイド様に死なれてはこの国はどうなります。先ほどご自分でも仰っていたでしょう。もしも命や体を差し出せと言われたらどうするおつもりです」

 リシュカさんの言葉にシアの勢いが詰まる。
 それに国王であるシアが今城を空けるわけにも行かないだろう。

「でしたら私が行きます」

 そう言ったのは、リシュカさんの傍に控えていたクオンだった。

「王城仕えでしたので一般の魔導師よりは神々に対する知識もあります。相性というのは分かりませんが、魔導師としての才もある程度は自負しております」
「あなた、兵士じゃなかったの?」

 思わず口にした疑問に、クオンは冷たい一瞥をくれシアに再度向き直る。
 分かってはいるけど嫌われている。一時はシアを見捨てたのだから当たり前か。

「……クオンはシェルスフィアでも希少な、剣と魔法両方に優れた才を持つ騎士だ。王城仕えの騎士隊隊長でもあり、おれも信頼を置いている」
「勿体ないお言葉です」

 確かにクオンは、シアの忠実な臣下のようだ。それは出会った時から身を持って感じていた。
 それにシアのこの姿を見ても咎められない人物というのは、そう多くないはずだ。
 シアはじっとクオンを見つめて思案した後その視線を再びあたしに向ける。
 既に口を挟む領分ではなくなっていたので、シアの視線にあたしはたじろいでしまう。

「……もとは、マオの護衛にとクオンを呼んでいた」
「えっ、そうなの?」
「お前はシエルに狙われているからな。リズやリシュカをお前につけるわけにはいかないし、国境の結界を越える相手が居る以上、もうどこもあまり安全とは言えない。お前を守るにはある程度有能な魔導師が必要だ」

 シアがそこまで考えていてくれたことが純粋に嬉しかった。
 あたし自身、力不足の自覚はあってもそこまで自分の状況が危険だとはあまり感じていなかったのだ。

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