(74)死の祭典②

文字数 2,057文字

「前夜祭」
「死の祭典」の前夜、行列が町々を練り歩き式場まで行進した。
処刑広場に処刑台が設置され、緑色の十字架を立てられた。
(特に緑十字はスペインでは異端審問聖庁のしるしだった)
また、獄中の囚人はこの時に明日処刑される自分の運命を知った。
死刑囚には前夜から、二人ずつの修道士が懺悔層として付き添った。

「祭典当日」
全囚人は未明に集合し、列を組み、牢獄から式場に行進した。
その先頭には鉾を持つ兵隊、次に黒布で包んだ十字架、次に罪人(微罪~重罪の順)、逃亡または死亡した囚人はその似顔をプラカードにして運んだ。
死んだ囚人の骨を掘り出し、運ぶこともあった。
行列の最終部は、官憲、教会の役人、異端審問官。(黒灰色の布地の中央に緑十字)
・例)1610年11月7日 スペイン、ログローニョの祭典では1000余人。
   1627年1627年6月21日バルセロナでは500人~600人。

祭典式場の広場には、審問官と被告のための舞台が設置され、周囲の建物は聖俗の高位高官の見物席になった。
一般民衆は広場に集められた。

「儀式の開始」
最初は、異端審問官の説教である。
異端審問官への服従と、異端追放への協力を誓う宣誓が行われた。
尚、国王、大公、領主が参加の場合は、彼らも片手を十字架に、片手を福音書に乗せて宣誓の礼を取った。(異端審問官の威厳が誇示される)

「判決宣告」
長文となる傾向があり、被告の罪状を詳細に読み上げた。
(魔女一人に8時間の記録がある)
(儀式が夜半まで続く場合があるため、松明が事前に準備されていた)

「悔悛の勧告」
文言は規定のものが読み上げられた。

「我が息子よ、お前にかかる激甚な嫌疑は、今聞いたところである」
「したがってお前は、異端者として断罪される以外の余地はない」
「よく聞くがよい。異端から離れようとするならば、民衆の前で、異端を誓絶し、教会及び我らがキリストの代理の名において科する償いを甘受することにより、お前の罪は許されると思われる」(実際は極刑判決に変更なし、欺瞞、天国においてのこと)

「我々は、お前の耐えうる範囲の償いを命じ、破門の解除を検討する、救いを全うして永遠の栄光にあずかることもできるであろう」(破門の解除は無かった)
「異端を捨てず、償いを拒むならば、ただちに世俗の腕に付せられ、お前は肉体も霊魂も失うであろう、お前はどちらを選ぶのか」
※ログローニョの祭典でが、53人の異端者中29人が魔女。11人分の朗読だけで、第1日終了。残りは2日目の明け方から日没まで時間を要した。
※トゥールーズで行われた祭典(1310年、ベルナール・ギーが主役)4月5日の日曜から、9日の木曜まで、全5日間を要した。
異端者の罪状の詳細な報告は非常に効果的であり、大衆の憎悪を煽った。

判決後、死刑囚以外は再び列を組み、もとの牢獄に戻り、それぞれの刑に服すことになった。
死刑囚は、ここで官憲の手に下げ渡された。
審問官は「願わくば、血を流すことなく、死に至らしめることなく、慈悲を持って処置されんことを」と言い添える。(教会は処刑に手を染めないが原則だった)(偽善的な表現)

「処刑」
処刑は、町はずれの、焼かれた罪人の骨灰を全て流し去るために、川の流れに近い場所で行われた。
尚、町中の広場、共有地の原っぱ等もあった。
処刑場には、死刑囚の数だけの火刑柱が立てられた。
(罪人を鉄の鎖で縛るため、梯子でのぼるような豪華なものもあった)、

火刑柱の周囲に薪束が積まれた。
ほとんどは地面に、あるいは薪束の中に立たせ、時には腰掛けに座らせた死刑囚を縛り付けるだけの柱もあった。(死刑囚は火刑の時に、身の回りの薪束に隠れてしまう場合もあった)
尚、ジャンヌ・ダルクの場合は下半身が見えなかった。
(処刑吏は、燃える薪束をかきわけて、衣類の焼け落ちたジャンヌの下半身を大衆に見せた

「火刑台での悔俊」
末期の異端との誓絶を求められた。
ただし、悔悛しても処刑は免れなかった。
再犯者は悔悛の有無にかかわらず処刑された。
威嚇と慰撫を反復し、被告の心を責め木にかけた。

尚、魔女裁判が異端審問だけでなく、聖俗の両方の裁判所で頻繁に行われるようになると、
かなり簡略化されることになった。
世俗の裁判による魔女の処刑は、官憲に引き渡す偽善的な儀式や型式は不要になった。
処刑の主宰者は、総督、市長、治安判事であり、式場は、領主の城、市庁舎の前庭になった。
スコットランドでは刑場が路地裏記録もある。
刑架は低い棒杭、油の空樽で焼く場合もあった。
イングランドは、火刑なしの法律のため、一つの刑架に幾人もの魔女を吊るした。(絞首刑)

ただし、処刑(死)によって拷問が無くなる魔女にとっては「死は最も幸福な門」(ミシュレ)でもあった。
逆に「のろのろと燃える生木の火」が最後の、最大の恐怖となった。
※そのノロノロ燃える火の中で、男が1時間以上も生きていた例がある。
男は焼かれながら薪を増やすよう懇願したが、却下された。
異端審問には、処刑者を、ゆっくりと焼き殺し、魂の浄化を行う意図があった。
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