(64)魔女論②

文字数 1,391文字

「魔女の槌」の中では、魔女の特徴、妖術の原因も詳細に書かれているが、何よりも大きな影響を与えたものは「魔女は異端者であり、背教者である。彼女らは死に値する」との断言を行い、即火刑理論を正当化したことである。

そして、その後も、この理論は著作の中で繰り返し唱えられた。

「魔女の妖術は、全ての罪のなかでも、最も酷い被害を社会に与えるにとどまらず、悪魔の大義と結びついているのだから、神の業を損なうのである」

「魔女は、単なる異端者のレベルではない。神の教えを知りながらも、それを捨てて悪魔に服従したのであるから、全く同情の余地はない」

「魔女を教会に引き戻す理由は全くない。彼女たちが、その罪を自白した時点で、直ちに焼き殺すべきである」
※この理論は、当時最先端の印刷術の普及の影響もあって、瞬く間に、ヨーロッパ全土の魔女裁判官に共有されることになった。

「魔女の槌」の約三割を占める第一部の長大な論証からの結論は、
「魔女は、悪魔と盟約を結び、悪魔に服従し、その代償として悪魔の魔力を与えられ、超自然的な妖術を行うことができる」である。

この結論により、魔女は「単なる異端の一部」のレベルを超え、「魔女は、異端者の中でも、極悪の異端者である」とされてしまった。
「他の異端者は悪魔と結託はしないのに、魔女の異端の忌まわしさは、この悪魔と人間の汚らわしい関係にある」

つまり、魔女は、「魔女が行った刑事犯的な行為のためではなく、その行為以前の「悪魔との結託:キリスト教的な魂の堕落」のために裁かれる」ことになった。
たとえ、魔力により「善行」を行った「白い魔女」も、その行為以前の「悪魔との結託」により「異端者」であり、「一刻も早く焼かれなければならない」が、神学的常識になったのである。

(参考)
その後、様々な学者により、「魔女」の定義が行われた。
ジャン・ポダンは「悪魔崇拝」(1580)において、
「魔女は悪魔と結託することにより、おのれの目的を果たそうとする者」と定義。

デル・リオは「妖術論究」(1599)において
「魔女は悪魔と結んだ契約の力によって常識では理解できない不思議を行う者」と定義しているが、どれも「魔女の槌」の影響であり、魔女の本質を「悪魔との結託」としている。

※ジャン・ポダン:1530~1596。フランスの経済学者、法学者、弁護士。
※デル・リオ:異端審問官

「魔女の槌」は、古代から伝承された「雑多な魔女概念」も統一した。
※「子供の血を吸う者」、「占う者」、「ホウキに乗り空を飛ぶ者」、「悪を行う者」
全ての「雑多な魔女」を「悪魔と結託した異端者」に統一したのである。
この統一の時点で、個々の行為(善行を含めて)は、度外視された。

本来ローマ・カトリック教会とは対立している、プロテスタントの神学者も、「悪魔との結託」をそのまま認めた。
※ジョージ・ギフォード「魔女と妖術に関する対話」(1593)
「魔女は即刻、死刑にするべきである。殺人を犯したからではなく、悪魔と結託したがゆえに」

かつての魔女は、「犯行の内容」により、「刑事犯として」刑量を判断されたが、「魔女の槌」により、全てが変わってしまった。
魔女は「単なる異端の一部」のレベルを超え、「魔女は、異端者の中でも、極悪の異端者である」とされたことにより、

「魔女と認定された時点で、火焙り」
「善行を行ったとしても、火焙り」

となったのである。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み