(37)ベルナール・ギー① 記録魔兼収集魔として

文字数 1,854文字

ベルナール・ギー(1261~1331)は、フランスのフランス中南部のリムーザン地方(現在のオート=ヴィエンヌ県)出身。
13歳~14歳頃に、ドミニコ会修道院に入り、18歳にドミニコ会の会士となった。
早くから、学問と教団管理に才能を示し、33歳でブリーブ僧院の論理学講師、その後はモンペリエで神学を学び、1294年にはアルビ僧院で神学を講じた翌年、アルビ僧院の院長に昇進した。(アルビ院長を出発点に、1307年までに、カルカソンヌ、カストル、リモージュ院長を歴任した)
おりしも、ドミニコ会の大建築の時代であり、聖堂、僧坊、回廊、水路等、僧院の院長ともなると、その設計、工事監督、資金調達にも奔走しなければならなかった。
(彼自身が、アルビ院長の時に、司教に願い出て、異端市民2人から没収した財産により、大鐘の鋳造と煉瓦壁の建造資金を捻出している)

1307年から1324年まで、南フランス、トゥールーズ地方の異端審問官として活動。
教皇ヨハネス22世とも、良好な関係を持ち、異端審問制度の整備発展にも、大きな貢献を果たした。
ベルナール・ギーは、神学や歴史に関する著述も多いが、異端審問におけるベルナール・ギーの業績は、18年間の異端審問官時代を経て、彼の経験と彼以前100年間の異端審問記録を集大成した「異端審問の実務」(1323頃完成)の著述である。

この「異端審問の実務」(全5巻)においては、異端者の逮捕から、判決に到るまでの、実用的な手続きの範例を示すとともに、異端各派の教理、祭儀の解説があり、異端各派に応じた審問方法の例示が詳細になされている。(異端者930人の判決記録397㌻が附録されている等)
※異端審問官用の最初の体系的な「教科書」として、その後全ての異端審問官に、重用されることになった。
※ベルナール・ギーの時代は審問記録が豊富な時代。
(異端審問制度が進んだ時代でもあるため)
歴史的には、当時の庶民の私生活の実態がわかる貴重な資料も多い。
例)「ニコラ・ダッブヴィル審問録」(1291~1300アルビ)
  「ジョフロワ・ダブリ審問記録」(1308~1309カルカソンヌ)
ジョフロワ・ダブリも、同時代1303年から、カルカソンヌの異端審問官で、ベルナール・ギーと互いに相手の審理や宣告に立会人となった。(いわば同役)
・異端審問及びドミニコ会への強い反感に屈せず、国王役人ジャン・ド・ビキニイに破門処置等を行った。
・審問記録には一部分1308年~1309年までの供述17名分だけが残る。
(異端審問所属の公証人が作成)
(被告自身が筆記したものも、残る)
・ベルナール・ギー「トゥールーズ判決集」
・パミエ司教(後のベネディクト12世)の「ジャック・フルニエ審問録」(1318~1325)
司教がこれを携えてアヴィニョンに入ったため、やがてバチカンの書庫に秘蔵され、今日まで全文が残っている。(速記風に、供述の全文の記録が残る)

また、ベルナール・ギー自身が、記録魔(執筆と収集魔)でもあった。
記録を見れば、集めて保存し、何らかの書類を見れば筆写するほどに、書物と執筆には執着した。
繁忙を極めたドミニコ会修道院院長時代であっても、ドミニコ会僧団に関する歴史書(資料)を収集し、1304年にドミニコ会総長に献呈、他「トゥールーズ管区説教僧団(ドミニコ会)僧院の歴史」をはじめとする多大な記録、「年代記の華」や「聖徳の鏡」を著述。
後年、ロデーブに赴任直後には、「ロデーブ教会文書集」を編集。
※大革命時に破棄処分、16世紀時の抜粋縮約本が残る。
第1~4巻が司教座教会の土地財産及び特権関係。
第5巻は「権利の書」で、国王発行の証書、ギー自身の記事を最終とする「歴代ロデーブ司教誌(同教会の歴史)
「ロデーブ司教区教会会議決議集」も編集している。
その他、「ローマ教皇一覧」、「ローマ皇帝一覧」、「歴代フランス王誌」、神学書「信仰箇条小論」

そして、「異端審問の実務」他、膨大な歴史書、法学書を書いたのであるが、異端審問文書については、興味深い言葉を残している。

「被疑者が、異端であるという、事実の本質に触れる可能性の高いもの、のみ筆記するべきである」
「あまりに膨大に作られると、多くの供述を互いに照合させる作業が、困難になる」
(異端審問官の実務より)

要するに、異端捜索のために、様々な異端者の供述を照合して、迅速かつ、芋づる式に次の容疑者を見つけるための資料でもあるので、「検索に便利な記述分量に留めるべき」、助言しているのである。

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