(71)魔女裁判⑦

文字数 1,480文字

魔女裁判官にとって被告を拷問して、多数の共犯者名を言わせることは、実に効率が高い仕事であった。
一人の魔女から150人余の共犯者リストが出来る場合もあり、100人以上の共犯者名をあげる魔女が何人もいた。
ある地方の法廷に保存されている37年間の記録では、約300人の魔女が約6000人の魔女を告発している。(一人当たり平均20人になる)
魔女裁判は、雪だるま式に共犯者を増やすシステムとも言える。

また、裁判官は、でっちあげ(捏造された)共犯者を、真実の共犯者であると、何のためらいもなく信じた。

例)ドイツ、トレーヴェス地方で魔女狩りを督励した副司教ビンスフェルト(1540-1603)は断言した。
「100人の魔女のうち、偽って他人を告発したものを、私は一人も知らない」
※著作「魔女の自白」(1591)より

そして、魔女裁判の異常さを示す一例が、時代と場所が異なっても、どの魔女の自供も、その内容は同じということである。
例をあげれば、1700年代の北ドイツにおける魔女は、1500年代の南フランスの「魔女」は「同じ内容」を自供している。

この「自供一致」の原因は、いくつかある。
一つは、魔女概念については、どの年代でも、どの地域でも、共通した普遍的な概念である、ということ。
そして、ほぼ全員の裁判官が、魔女裁判の普遍的テキスト「魔女の槌」、その他の裁判教科書が示す範例に沿って、同じ質問を行ったということ。

何しろ、尋問事項と尋問方法は完全同一マニュアル化されていた。
その上、過酷な拷問の効果もあり、全てが。裁判官が書いたシナリオ通りの自供に追い込まれたのである。

そして、この「自供の一致」は、「魔女の普遍的な実在性」を、一般の人々に信じ込ませる効果を持った。
まず、異端者の処刑は、なるべく多くの受刑者を刑場にまとめ、なるべく多くの民衆を集め見物させる「見世物」だった。
その際に読みあげられる全ての「魔女の自供」は、全く同じ(マニュアルにそって定型的なもの)になり、しかも一般の人が、子供の頃から教えられてきた(心に刷り込まれてきた)魔女像に一致していた。
それによって、一般大衆は、魔女(結託している悪魔を含めて)の実在を疑う理由も無くなり、魔女の自供も、「真実」と、思い込んだのである。

(参考)
魔女容疑者、逮捕者の増加が、「慎重で堅実な裁判手続き」を放棄させた。
裁判官は、定型化された誘導尋問しか行わず、被告が否定すれば、裁判官のシナリオ通りに「自供」するまで苛酷で冷酷な拷問が続けられた。
被告は、痛みと絶望の中、裁判官が書いたシナリオ通りに「自供」する以外に、拷問を止めさせる手段がなかった。
「魔女としての自供」がなされれば、法廷書記は、尋問記録の「定型化」「簡略化」して、先人の書いた通りに「書き写す」だけが、仕事であった。
※そもそも、尋問事項(内容)が一定化しているので、法廷書記は、裁判の尋問部分の詳細な記録化を省略し、被告の答弁部分だけを記録するようになった。
(ただし、過酷な拷問による無理やりの裁判官のシナリオ通りの強制虚偽答弁であったが)

魔女裁判におけるモラルは一貫して「倒錯」していた。
残虐、違法、偽善、欺瞞、貪欲、不倫、軽信、迷信、歪曲、衒学が混淆し、「自分たちだけが何をしても正しい」その「確信」が全ての悪徳と不義を正当化した。

死刑の恐怖と実施によって人民を支配強化することと、自動的財産没収が、好んで行われた。
現代西ヨーロッパにあるような「人権概念」など全く考えることがない支配層(国王、キリスト教会)にとっては、実に「おいしい仕事」だったのである。
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