(61)魔女集会②血の契約書

文字数 1,996文字

イタリアの代表的悪魔論者グアッツィオは著書「魔女提要」(1608)で、「悪魔礼拝式」を描写している※基本的に他国でも流れは同じなので、他国の例も併記する。

1)全員が集合した時点で、まず灯をともす。(青い炎の蝋燭)(黒い蝋燭)例有り。
不浄の火をたき、もろもろの宴楽、舞踊をもって魔王を神としてたたえ、ひざまずいて彼に近寄り、松脂のろうそくに火をつけて捧げる。
2)魔王(悪魔)が、この集会の魔王が集会の座長であり、山羊、犬などの姿で玉座に座っている。(※山羊は古代から悪徳の権化)
3)魔女たちは、この魔王(悪魔)に近づいて礼拝し、黒い蝋燭、嬰児のへその緒を魔王に捧げたうえで、忠誠を誓う印として、魔王の臀部に接吻する。
※「魔王(悪魔)の臀部に接吻」は魔女の異端的精神の最も不快な表現として。裁判官が憎悪したものであった。

魔王は、悪魔礼拝終了後に、新参者の入門式を行い、悪魔との契約:血の契約書を交わす儀式に移る。
魔女たちは、キリスト教式の洗礼の恩恵を放棄し、新たな洗礼が、聖油と男の精液を混ぜたもので行われた。

悪魔と魔女は、「血の契約書」を交わし、悪魔は魔女に、呪われた次のような超自然力を授けた。

・呪いをかけて、夫婦を離反させ、不妊、不能にする。
・赤子を窒息させ、殺す。
・家畜を病気にする、あるいは殺す。
・農民にとって富の源泉である両腕を麻痺させ、収穫ができないようにする。
・嵐を起こし、畑に雹を降らせ、凶作にする。

魔女は、生涯、悪魔に仕えることを誓う。
十字架を踏みにじり、イエス・キリスト、聖母マリア、諸聖人、ローマ・カトリック教会とその祈りの力を全て否定し、その内容を記した内容を自分の血液で記し、署名する。
魔女は、自分の身体の一部(爪、髪の毛、血等)を悪魔に献上する。

悪魔は魔女に金銀を与え、定期的にサバトに飛んでくるためのクリームを魔女に与え、伝染病を起こす黒あるいは灰色の粉末を与えた。

さて、その「悪魔との契約書」の現存例を示すことにする。
フランスの神父ユルバン・グランディエに対する魔女裁判で証拠として、ルーダンの法廷に提出されたものになる。(1630年6月2日に告発され、1634年8月18日に生きながら焼き殺された)

この契約書は、グランディエの「忠誠の誓い」と「悪魔の認可」の二部構成。
両方とも、略綴りのラテン語で書かれ、「悪魔の認可」は、ダヴィンチの「雑記帳」のように右書き(鏡文字)で書かれている。

(忠誠の誓い)
「我が神にして主なるルキフェル、私はあなたを私の神、及び王として認め、私が生きている限りあなたに仕え、従うことを約束する」
「また私は、イエス・キリストのみならず、あなた以外の神を否定し、あらゆる聖徒、あらゆる使徒、ローマ教会、あらゆる聖餐を否定する」
「また、キリスト教徒が私のために行うあらゆる祈りと願いとを拒否する」
「私は出来る限り多くの悪をなし、全ての人間を悪に引き寄せることを、あなたに約束する」
「私は堅信礼、洗礼、その他、イエス・キリストとその聖徒らのあらゆる功徳を否定する」
「もし私があなたに仕えること、あなたをあがめることを怠り、また毎日三回、臣従の礼をあなたに捧げることを怠るならば、私は私の命をあなたのものとして捧げることを、この年、この日に誓う」

 地獄より引き出された ユルバン・グランディエ

「悪魔の認可書」
我、全能のルキフェル(魔王)はサタナス、ベルゼブブ、レヴィアタン、エリミ、アスタロト、及びその他を介添えとして、本日、我らと。ユルバン・グランディエとの盟約を承認した」
「我々は、お前に、愛する女、花の処女、純潔な尼僧、世俗の名誉、悦楽、及び富を与えることを約束する」
「お前は三日毎に姦淫を行わなければならない。それはお前にとって貴重なものになるだろう」
 「お前は一年に一度、血のしるしのあるものを我々に捧げること」
「また教会の聖餐を足下に踏みにじり、我々に祈りを捧げることを約束すること」
「この契約により、お前は二十年間、地上の人間の間にあって幸福に生き、やがては我々の間に来たって、神を呪うであろう」
「地獄の悪魔会議にて、右契約する」

(署名)サタナス、ベルゼブブ、ルキフェル、エリミ、レヴィアタン、アスタロト
 魔王ならびに、地獄の諸王と押印を認証する。

       記録係バールベリト副署

尚、魔女の署名は、本人の血液で書かれることが決まりであり、文字が書けない者は、十字か〇を書いた。
共通していることは、キリスト教信仰の全面否定と、心身を悪魔に全面的に捧げ、悪魔を主として臣従すること。
その代償として、呪われた超自然力の付与と、現世的欲望の充足である。
尚、上記の契約書自体が、魔女裁判官の「有罪をでっちあげるための創作」とする説が強いが、現実的に魔女狩り裁判では、「範例」となり、夥しい無実の人々を生きながらの火刑に送る元凶となった。
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