(75)魔女裁判にかけられた人たち

文字数 1,090文字

魔女嫌疑がかかり、逮捕された人たちは、不潔極まりない獄房の土間で、焼かれる日を待つ生活を送る以外、何もなかった。
拷問から逃れるためだけの「でたらめな自白」であっても、「魔女たち」は撤回を行わなかった。
仮に撤回などしようものなら、厳しい再尋問と再拷問につながったからである。
撤回は、神の法廷で、嘘をついたことになり、絞殺後に火刑になるという「恩典」が消え、生きながらの磔刑になることも、撤回をしない重要な理由だった。
つまり、どうせ殺されるのなら、楽に死にたかったのである。

例1)
17世紀英国、検事総長ジョージ・マッケンジー(「スコットランド最高裁における弁論」(1672)を著述)が、スコットランドで焼かれるのを待つ数人の魔女を獄中に尋ねた時の、魔女の告白。

①「自分は無実ですが、貧乏な女です」
「仮に、魔女の嫌疑から放免されたとしても、仕事も住む部屋も、与えてもらう望みはありません」
「どう考えても、飢え死にを待つばかなのです」
「意地悪な近所の人からの暴力も予想してしまいます」
「それなら、嘘の自白をして死んだほうが、ましなのです」

②ある女が、悪意から魔女と告発された。(本当は潔白だった)
夫や老人からも、見はなされた。
牢やから出られる望みもない。
信用を取り戻す見込みもない。
むしろ死んだほうがまし、なので嘘の自白をした。

例2)多くの死刑囚のざんげ僧を務めた、ドイツ、ヒルシュベルクの牧師ミカエル・スタピリウス(17世紀前半)が、処刑直前の囚人から聞いた秘密の自白メモ。
①魔女ウォルラート
「拷問にかけられ『墓地の近くに住んでいる者について知っていることを言え」と何度も尋ねられた」
「裁判官が、誰と誰を、私に密告させたいのかが、わかった」
「噂にのぼっている数人の名を言わされた。(罪の内容は、全く知らなかったが)」
「後に、その人たちの名前の削除を頼んだが、再び拷問にかけると脅された」
  
②「無実である」ので、「罪の自白を取り消し」を行うように、ある囚人に勧めたが、断られた。
 「私は、過酷な拷問と不衛生な牢獄で足が腐りました」
 「今は、蠅一匹止まるだけで、火が付いたような激痛になり、夜も眠れません」
 「再びの拷問は受けたくないですし、早く楽に死にたいので、嘘の自白でも撤回しません」

③また、別の極刑予定者は、告白した。
「無実の人を共犯者として指名させられました」
「神からの罰を恐れています」
「真実は、拷問を恐れるために偽証するしかありませんでした」

魔女裁判官の手に落ちることは、獅子や熊と格闘させられるに等しかった。
被告は、身を防ぐ手段がなく、ただ痛めつけられ、殺されたのである。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み