(27)教皇グレゴリウス9世の異端審問制度整備

文字数 1,759文字

話は、前に戻ることになる。
そもそも、アルビジョア十字軍終了時に、教皇の座についたグレゴリウス9世(在位1227~1241)は、異端の動きや、中途半端な対応に終始する現地司教や現地領主に「見切り」をつけ、新しい対策を打ち出していた。

具体的には、
「異端者に対して神学論争で負けることなく」
「異端者から非難されない高潔な人格を有し」
「異端の防止と撲滅に燃えるような宗教的熱意」を持つ「適格者」に、
管轄上の地域的制約に関係なく、どこの司教であっても、支配下に置き、ひたすら異端撲滅に専念する職務を与え、しかも教皇直属として、組織化することであった。
そして、ドミニコ会、フランチェスコ会、シトー会の中から、その適任者を選んだ。
実際は、ドミニコ会士が、圧倒的に多かった。
※当時のドミニコ会は、禁欲と清貧の生活に徹しており、神学知識の習得にも熱心、何よりも創設者聖ドミニコの意志を継承し、異端撲滅の熱意が強かった。
教皇グレゴリウス9世としても、「特に任命しやすい」修道会だったようだ。

1233年4月20日、教皇グレゴリウス9世は、「フランスの大司教、司教、及び全ての高位聖職者」宛て、及び「異端審問官としての説教師修道会(ドミニコ会)院長及び修道士」宛てに、二通の教書を発布した。

「フランスの大司教、司教、及び全ての高位聖職者」宛ての大意は、
「諸君の異端審問における重荷の軽減のため、フランス及びその隣接地域の異端者抑圧を目的として、説教師修道会(ドミニコ会)を派遣すること」
「派遣した者を、暖かく迎え、万事において好意と助言を行うことを希望する」
と、至極、温和妥当なもの。

「異端審問官としての説教師修道会(ドミニコ会)院長及び修道士」宛ては、実に過激な内容を含んでいた。
「派遣した地域の聖職者が異端者擁護を止めない場合は、彼らの聖職録の永久停止権と、彼らに対する専断裁判権を付与する」
「必要な場合は官憲の援助要求権と専断による異端弾圧権を認可する」
これにより、異端審問官の支配は、教皇直属として、異端追及に関する限り、現地の司教や官憲に優越し、かつ、キリスト教国の前地域に及ぶことが、決定されてしまったのである。

尚、異端審問制度成立時から、異端審問官は、以下のような審問方法(考え方)を採用していた。
(そのまま、後代の魔女裁判でも、継続した)
・一人の異端者を滅ぼすために、千人の無実者を犠牲にすることを厭う必要はない。
・被告に有利な弁護の機会は完全に奪う。
・逆に、被告に不利な証言のためには、あらゆる機会を与える。
・人智の限りを尽くした拷問を行い、自白を強要、あるいは捏造してもかまわない。
・容疑者は、最初から有罪判決に直結させる。(無罪にはしない)
・罪の償いの義務は五体を焼かれた後も残る。
・一切の審問費用は、異端者の入牢費用と拷問、及び身体を焼いた薪代も含めて、異端者の財産没収から弁済させる。

この時代を代表する神学者トマス・アクィナス(1225~1274:ドミニコ会士)は、代表作「神学大全」の中で、断定している。
「教会は、異端者を死の危険から救う必要はない」
「異端者は贋金者であり、霊魂を堕落させるのは、肉体の必要を充たす貨幣を贋造するよりも、はるかに重罪である」
「異端者は、ローマ・カトリック教会の教えを認めない以上、主なる神に対しての大逆罪を犯しているのである」
「したがって、君主が大逆罪者や、貨幣贋造者を即刻処刑しても、正義に反しないとするならば、一層強固な理由により、ローマ・カトリック教会が、異端者を破門するのは当然であり、極刑に付しても、正義に反することはない」

要するに、当時のローマ・カトリック教会の考え方は、ローマ・カトリック信者でなければ、極刑に付されて当然なのである。
(もちろん、我々、当時のローマ・カトリックからすれば、日本人も、極刑を免れない)

「イエスのゆるしの宗教」や「7の70倍許せ」マタイ福音書の精神は、何もない。
我々は、ローマ・カトリック信者ではない時点で、すでに、「霊魂の堕落した、人間扱いされていないケダモノ」と判断されている。

問題は、人間世界で無罪であっても、ローマ・カトリックを信じない時点で「神の世界では有罪、極刑相当」になるとする「恐ろしい独善主義と排他主義」ではないだろうか。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み