×××××は斯く語る
文字数 1,186文字
「人間はね、最低だよ」
女が、吐き捨てるように言う。
嫌悪感がありありと滲み出る声音。冷徹な言葉には、聴くものを震え上がらせる気迫があった。
「自分たちが食物連鎖の頂点に立っていると、烏滸がましくも誤解して、さも世界の支配者みたいな面をして闊歩している。虫唾が走るね。本当は喰われる側でしかない下等生物なのに、本人たちはどこまでもそれに無自覚だ。今、こうして話している最中も、彼らは食事の真っ只中だ。人間は誰も気づかないまま、緩やかに喰われて死んでいく。愚鈍で愚昧な輩には相応しい最期だよ」
女は朗々と捲し立てる。
それを、傍らで聴くものがいた。
少女は、女の言葉の意味を掴みかね、小首を傾げていた。
「……あしざまにののしっているけれど、でも、あなたはにんげんがすきなんじゃないの?」
「私が? 人間を好き? あはは、冗談はやめてくれよ。私は人間なんてこれっぽっちも好きじゃない。寧ろ嫌いだ。大嫌いだよ。唾棄するほどに嫌いだ。この世から人間さえ消えてくれれば、どれだけ素晴らしい世界になるか、何度も夢想している」
「…………」
「でも、そんな私でも唯一認める点がある」
「みとめるてん?」
「あぁ。愛だよ。人間は皆等しく下らないが、愛という感情だけは別だ。あの情動だけは、人間への評価をプラスに転じさせている」
女は恍惚の表情を浮かべ、だらしなく笑った。
半開きになった口からは、今にも涎がこぼれそうで。
少女はそんな女のことを、不思議そうな顔で見上げていた。
「あぁ、愛! なんていい響きだろう! 私は唯一、愛を肯定する! この世の全ては愛でできている! 愛は偉大なり! 愛こそが至上の感情だよ!」
「あい……?」
「んん? あぁ、失礼。悪かったね、急に愛だなんて言われても、君には分からないだろう。たとえ微に入り細に穿ち説明したところで、君は理解しないだろう。愛とはそれほどに複雑で、それほどに難しいんだ。こればかりは言葉ではなく、体感し体験してもらう他にない」
女はがっくりと肩を落とし、深々と溜息を吐いた。
「あい……どんな、かんじょうなのかしら。それは、しらないなまえだわ」
「口で言うのは難しいんだよ。けど敢えて言葉にするなら……他のなにを犠牲にしてでも、手に入れたいと思うことかなぁ」
「……わたしにも、わかるひが、くるかしら……」
「きっと来るさ、私が保証しよう。……いや、もしかしたら君はもう、愛を知っているのかもしれないね」
「え?」
少女が首を傾げる。
その仕草を見て、女はころころと笑った。そのままくるりと少女の方を向くと、悪戯っぽい顔で続けた。
「この世の全ては愛によって生まれているんだ。君のような存在も、愛があるからこそ生まれたのさ。愛は君の中にある。あとは君が、それに気づいてあげるだけだよ」
女が、吐き捨てるように言う。
嫌悪感がありありと滲み出る声音。冷徹な言葉には、聴くものを震え上がらせる気迫があった。
「自分たちが食物連鎖の頂点に立っていると、烏滸がましくも誤解して、さも世界の支配者みたいな面をして闊歩している。虫唾が走るね。本当は喰われる側でしかない下等生物なのに、本人たちはどこまでもそれに無自覚だ。今、こうして話している最中も、彼らは食事の真っ只中だ。人間は誰も気づかないまま、緩やかに喰われて死んでいく。愚鈍で愚昧な輩には相応しい最期だよ」
女は朗々と捲し立てる。
それを、傍らで聴くものがいた。
少女は、女の言葉の意味を掴みかね、小首を傾げていた。
「……あしざまにののしっているけれど、でも、あなたはにんげんがすきなんじゃないの?」
「私が? 人間を好き? あはは、冗談はやめてくれよ。私は人間なんてこれっぽっちも好きじゃない。寧ろ嫌いだ。大嫌いだよ。唾棄するほどに嫌いだ。この世から人間さえ消えてくれれば、どれだけ素晴らしい世界になるか、何度も夢想している」
「…………」
「でも、そんな私でも唯一認める点がある」
「みとめるてん?」
「あぁ。愛だよ。人間は皆等しく下らないが、愛という感情だけは別だ。あの情動だけは、人間への評価をプラスに転じさせている」
女は恍惚の表情を浮かべ、だらしなく笑った。
半開きになった口からは、今にも涎がこぼれそうで。
少女はそんな女のことを、不思議そうな顔で見上げていた。
「あぁ、愛! なんていい響きだろう! 私は唯一、愛を肯定する! この世の全ては愛でできている! 愛は偉大なり! 愛こそが至上の感情だよ!」
「あい……?」
「んん? あぁ、失礼。悪かったね、急に愛だなんて言われても、君には分からないだろう。たとえ微に入り細に穿ち説明したところで、君は理解しないだろう。愛とはそれほどに複雑で、それほどに難しいんだ。こればかりは言葉ではなく、体感し体験してもらう他にない」
女はがっくりと肩を落とし、深々と溜息を吐いた。
「あい……どんな、かんじょうなのかしら。それは、しらないなまえだわ」
「口で言うのは難しいんだよ。けど敢えて言葉にするなら……他のなにを犠牲にしてでも、手に入れたいと思うことかなぁ」
「……わたしにも、わかるひが、くるかしら……」
「きっと来るさ、私が保証しよう。……いや、もしかしたら君はもう、愛を知っているのかもしれないね」
「え?」
少女が首を傾げる。
その仕草を見て、女はころころと笑った。そのままくるりと少女の方を向くと、悪戯っぽい顔で続けた。
「この世の全ては愛によって生まれているんだ。君のような存在も、愛があるからこそ生まれたのさ。愛は君の中にある。あとは君が、それに気づいてあげるだけだよ」