20XX年のホームルーム

文字数 499文字

「はい、ではみなさん、時間になりましたのでこちらに帰ってきてください」
 先生と呼ばれる女性のそんな号令を合図に教室内にいる生徒と呼ばれる子ども達ははめていた特殊なゴーグルを外す。

「今日の10分間読書はどうでしたか?」
 言いながら先生は教壇の上にあるものを置いた。
「これが何か分かる人?」
 それはそれなりの厚みを持っている紙で出来た物体だった。
 知らなーい分からなーいと言う声があちこちからあがる。

「これは本というものです」
 先生は言う。生徒達は皆一様に頭上に「?」マークを浮かべている。
「昔の人達は今みんなが見てきた物語をこの本というものを読むことで楽しんできました」
「みんながダウンロードしている物語達は元々はこういう風に紙に文字で書かれていました。」
 生徒達はまだピンと来ていないようだ。先生は実際に中を開いてページの様子を見せる。
「せんせー、文字だけで映像がないとどんな話か分かりませーん」
 そんな声が上がる。
「昔の人は本の中の文字を見て自分でその場面の映像を想像しながら本を読んでいました」
 技術の進化と引き換えに私達は生物としては退化したのかもしれません、先生はその言葉を飲み込みました。

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