２０２Ｘ年の予行演習

　アール氏はモニターの前に座ってキーボードを叩く。明日はいよいよ以前から気になっていた女性との初めてのデートだ。

　アール氏は明日の予定を建てるのに余念がなかった。
　といっても一昔前のように自分で計画を立ててどこに行くかと調べるのではない。計画は全てＡＩが立てる。
アール氏は明日の天気予報のデータや彼女について知り得ている情報を入力するとそれを受けたＡＩが明日に最適なデートプランを立ててくれるのだ。
　ものの数秒でプランが立てられたのでそのデータを自身のスマホに転送する。これで明日はその通りに行動すればいい。

「次は会話か…」
　アール氏は会話専用のＡＩを立ち上げ明日の会話のシミュレーションをＡＩに行わせる。そして導き出された文章を再びスマホに転送する。後はこれを一言一句覚えて行けば良い。

　そして当日、アール氏はＡＩが導き出した通りの服を着てＡＩが示した通りのプランを遂行すべく待ち合わせ場所で彼女を待っていた。

「今日は良い天気だね…」
　そんな文言から始まるセリフはしっかり暗記してきた。

　　と、その時俄雨(にわかあめ)が降り出した。同時に彼女がこちらに向かってやって来た。
　アール氏はその場から逃げ出した。