幾千の懊悩の果てに

文字数 500文字

「ここから先に出る魔物達は今までとはひとあじもふたあじも違うから用心するんだぞ」
 今日も今までに数え切れないくらい繰り返してきた言葉を言う。だってそれが唯一僕に与えられた言葉だから。

 最果のコルニエ村の村人C
 それがこのゲームにおける僕の名前だ。この村に出る魔物を倒すことでドロップする素材が武器や防具の強化に欠かせないらしくこの村には世界中から様々な冒険者がやって来る。
 それはあるときは鎧を纏った騎士だったりするしあるときは裸に近い恰好をした女性だったりもする。

 このゲームの開発者は何を思ったのか村の魔物が出るエリアに行くには必ず僕に話かけなければならない、という設定をしたので僕は何回も何回も同じ台詞を言い続けなくてはならない。

「ここから…」
 そしてこんな風に99.8パーセントの確率で僕の言葉は「スクロール」という行為によって遮られる。
 むなしい。
 と、同時に僕は思った。どうせ誰も聞いていないのなら違う言葉を喋っても良いんじゃないか。
                 

【悲報 ひとあじもふたあじもおじさんに異変w】
 村人の自我が世界をほんの少し揺さぶった。

                
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