割と思い出したケド

文字数 499文字

 -この曲は-
 ガソリンを給油していた俺はスタンド内でかかっていたBGMがサビを迎えたところで一気に現実に引き戻された。給油量が10リットルを超えたころ、俺は気付いてしまった。

 この曲は、昔付き合っていた-数ヶ月前に俺達は別れたのだー彼女が大好きだった曲だ。
 俺は給油口とメーターを交互に見ながら小さな舌打ちをした。

 なんで今日 ―今日は12月25日、そう、クリスマスだー のこの時間にこの曲、十数年前のこの曲を流さなくちゃいけないんだ。

 流れ続ける聞き慣れた曲を耳にしていると、もはや封印したはずの記憶達が豊かな彩りを持って蘇ってきた。

 クソッタレ、さっさと満タンになれよ。心の底から俺は思った。

 それから数十秒後、何とか給油を終えた俺は急いで車に戻った。
 そしてふと思い出して助手席のダッシュボードを開けてみる。

 あった。車検証などが入ったファイルと一緒に、今流れていた曲を歌っていたグループのベスト盤のCDがそこには残されたままだった。返す機会のない返し忘れだ。

 そう言えばあれから誰もこの車の助手席に乗せていない。そこにあるはずのない温もりを求めて助手席に触れた後、俺はエンジンをかけた。 
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