猫と消失

文字数 495文字

 あ、吉田の結婚式の招待状の返事、まだ書いてなかった。
 まあいいや。明日にしよう。

 あ、JAFの更新の支払い手続き、まだだった。
 まあ、いいや。明日の仕事終わりにコンビニで済まそう。

 あ、明日の会議の資料の直しが残ってた。
 ま、まあいいや。明日の朝早く起きてやろう。

 やらなければいけないことを先延ばしにして男は眼を閉じた。


 ―遠くで目覚ましが鳴っているー

 音は遠いが音量はいつもの数倍の大きさで聞こえる。いつもの要領で手を伸ばすが一向に手応えがない。おかしい。目覚ましの場所を移動させた覚えなど男にはなかった。

 眼を開けてすぐに以上に気付く。身体が毛に覆われてフサフサだったのだ。色も自分の知っている皮膚の色でなかった。

 そして致命的なことに気付く。手の平に肉球があったのだ。まるで猫のような…

 そこに至り男は気付く。これは夢、だと。

 何とか目覚ましを止めた男は再び眼を閉じた。

 次に眼が覚めた時、男は随分リアルな夢を見たものだと冷や汗をかいた。

 ―しかしー

 いつもよりすべてのものが大きく、そして遠くに見えた。慌てて男は自分の手を見た。
 昨日まで男がいた部屋には一匹の猫しかいなかった。
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