上も向いて歩こう

文字数 492文字

男は苛立っていた。満員電車の中で老若男女の乗客に前後左右から押され、また時に押しながら苛立っていた。全く今日は良くない。朝からリズムが微妙にズレている。

全ては昨日の夜寝る前にスマホのマナーモードを解除し忘れたことに始まる。おかげでいつもの時間に起きられずいつもより20分遅く起きてしまった。たかが20分と思われるかもしれないが朝の20分の遅れは割と死活問題だ。

いつも飲む白湯(さゆ)を飲む時間もなく朝パンを食べるハメになり(朝は米派)ゴミも出し忘れ(次は3日後だ)昨日履いた革靴を2日連続で履いてきてしまった(革靴は3足のローテーションで回している)。その小さな「いつもと違うこと」の積み重ねが男を苛立たせた。

そしていつもより一本遅いこの電車に乗ることになったのだがたった一本の違いなのに車内の景色、というか人口密度が全然違うので男は愕然として、うんざりしていた。

「仕事行きたくねぇなぁ…」

そんなことを思いながら電車から吐き出されて歩き始めようと思ったその時、男はふと空を見上げた。そこには雲一つない青空が続いていた。そして気付いた。下ばかり向いて歩いていたことに。
男は胸を張って歩き始めた。
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