膝上攻防戦

文字数 497文字

 俺は姿見の前でハーフパンツのジッパーを上まであげる。これで準備万端だ。後は出かけるだけ。その時スタスタと軽やかな足取りがこちらに近付いてきた。

「支度終わった?」
「終わった」
「え、もしかしてその恰好で出かけようとしてる?」
「…変?」
 
 彼女は俺の身体の部位の一点を指差している。

「何?」
「スネ毛ボーボーだけど大丈夫そ?」
「スネ毛?」
「ハーフパンツ履くなら処理して欲しいんだけど」
「え?男で毛の処理してるとか何かイヤじゃん」
「私はその恰好で並んで歩くほうがイヤなんだけど」
「そこまで言う?」
「『履くなら剃れ、剃らぬなら履くな』なんだけど?」
「そんな交通標語みたいなこと言われても…」
「とにかく下替えて」
「そんなにイヤ?」
「じゃあさ、私が何も処理せずにノースリーブ着てたらどう思う?」
「…勘弁してくれよ、って思うかな」
「同じことしてる、今まさに」

 再び彼女は俺のスネの辺りを指差す。
 なるほど。そうなのか。俺は激しく納得した。

「分かったら履き替えてな?」
「はい」
「あのカーキ色のカーゴパンツかアイスブルーのペインターパンツとかでいいんじゃない?」
「…はい」

俺は先ほどあげたジッパーを下までおろした。
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