源氏物語　ｉｎ　　ｍｙ　Ｗａｌｌｅｔ

「2050円のお返しです。ありがとうございました」
「ありがとうございます」


「お待たせ」
「何枚同じようなTシャツ買うの？」
「セールだからセーフ」
「子音で韻踏んでも許されないんだけど？」
「そんなことよりこれ見て」
「二千円札じゃん、まだ流通してるんだ」
「俺も十数年ぶりに見たわ」


「Hey！YOUはなぜコスメ売り場に？」
「えーっと…あ、あった」
「口紅？」
「最近は口紅って言わないから、おっさん」
「じゃあ何て言うわけ？」
「リップね」
「で、なんでリップを手にニコニコしてるの？」
「前から一回これ試してみたかったんだー、ちょうど1980円だし、ハイ！」
「ハイ！ってどういうこと？」
「自分ばっかり欲しいもの買ってズルいと思います！」
「え？」
「それにそのＴシャツを洗濯して片付けるのは誰なんだろうね…」
「俺もたまには(１０回に１回)洗濯するから」
「はぁ、職場でもお家でも働いて私可哀想」
「え？」
「カワイソウ…」
「分かったからそんな顔でこっちを見ない。リップ買うから」
「やった！レジあっちね！レジ袋いらない！入り口で待ってるから！ありがとう！」

　こうして俺の財布にやって来た二千円札は一瞬で夢幻(ゆめまぼろし)のごとく消えたのだった。