時を駆ける嘘

文字数 499文字

「…以上が今回のことの顛末である」
 そう筆を結んだ惣兵衛(そうべえ)は胸をなで下ろした。後はこれをお侍様に届ければ今回の仕事はお終いだ。

 隣国で殿様が討たれた。

 隣国との間に交流はないが騒然となった我が国では情報収集として雇われた惣兵衛が秘密裏に派遣されたのだ。

 惣兵衛は隣国にてお城の周辺、城下町に住む住人に地道に聞き込みを行いその仕事の仕上げとして冒頭の(ふみ)をしたためたのであった。


「何々、側近家老の一人である某が叛意を企て他のご家来衆を巻き込み遂に殿様も討つにいたった、か」

 自国に戻った惣兵衛は早速文をお侍様に披露した。

「惣兵衛」
 やった、報酬の時間だ。惣兵衛は顔を伏せながら微笑んだ。

「お主は何を聞いてきたのだ。ご家来衆が叛意を企て側近の家老が一人殿様を守って闘ったが及ばずに殿様が討たれた、というのが事の真相とお前の他に雇った者どもの文には書かれておるぞ」

 惣兵衛は青ざめた。

「お主への報酬は無しじゃ、下がってよい」

 家に帰った惣兵衛はその文を壺の中にねじ込んだ。


数百年の時が流れ、地方の小さな新聞にこんな記事が載った。
「戦国時代の謎多き変に衝撃の新事実!?数百年前の書物が見つかる。歴史学者騒然」
 
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