像物園

文字数 493文字

「パパ、あの動物は何ていうの?」
 手をつなぐ息子がこちらを見上げながら尋ねる。
「あれは、虎っていうんだよ」
「すごい、格好いい!強そう!」
 檻の中に一匹だけ飼われている虎は落ち着きがないように檻の中をグルグル回っている。しばらくそんな様子に夢中だった息子はやがて飽きたのか私の手をクイクイ、と引く。それは移動のサインだ。
「リアルだったー。パパ、次に行こう」

 私達は再び歩き始めた。
「パパ、あれは何ていうの?」
 息子の指差す方を見て私は小さくため息をついた。
「あれは、ライオンって言われてたんだよ」
「ライオンはもういないんだね」
 息子が指差したのは確かにライオンだった。ただし、それは像だった。
「パパが子供の時はライオンもいたんだけどな」
 その言葉を聞いて息子は大きなため息をつき目を伏せた。


 様々な環境の変化に伴う生態系の変化により年々絶滅する動物は増えている。その波は動物園にも押し寄せ絶滅した動物は像に置き換えられていっているのだ。
 久しぶりにここに来て私は愕然とした。施設の名前が「動物園」から「像物園」に変わっていたのだ。それは園内の動物の半数以上が像になったことを物語っていた。
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