第8話

文字数 991文字

あちらこちら、テントが建っている。ここは隊商たちの集合場所なのだが、同時に、早速この場所で商いを始める気の早い連中もいて、そんな人々が、ここで市を建てているのだ。生来の買い物好きのカスウィザードは、一つ一つテントを覗いて周りたい衝動を懸命に抑え、荷運び用の生き物を商っているところを探して歩いた。

ほどなくしてそれが見つかった。ひときわ獣の臭いが強い一角に、丸く柵で囲った箇所があって、そこで10頭ほどのロバが草を食んでいた。柵の傍らの杭に、もたれかかるようにして立っている老人がこのロバたちの持ち主なのだろうと見当をつけ、カスウィザードは貨幣が入った革袋を手で確かめたうえで、老人に話しかけた。

「このロバを借りることはできますか?」

老人は、少し耳が遠いらしかった。それでも、なにを問われたのかは分かったらしい。クシャッ、という感じでうなずいた。

「貸すことは貸すが、かえってこなんだらどうする?」

言われてカスウィザードは黙った。確かに、見も知らぬものに貸すのは、リスクが高い。かといって、あまりに高値をふかっけられても困るのだが…。

「ロバ一匹借りたい。レンタル料として100キロロ、それから、信用貸ししてもらう分として、200キロロあんたに預ける。俺が帰らなかったら、その200もあんたのものだ」

カスウィザードは思いきって言った。ここで値切っても始まらない。なに、スフィンクスの心臓さえ手にすれば、何万倍にもなって返ってくるはずの、お金だ。

老人ははじめ渋い顔をしていたが、カスウィザードが革袋から現ナマを取り出して見せると、思わずその顔に笑みがこぼれた。老人が柵に手をかけると、そこは簡易的な扉になっていたのだろう、ぎいいと開いた。早速頭を下げて突進してきた一頭を、「こいつでいい」とカスウィザードはその頭を軽く撫で、借り上げた。

「毎日干し草と水をやってくれよ。生きて返しとくれよ」と老人が涙声で言うので、それは演技ではないととっさに感じたカスウィザードは、「大事にするからね」と宥めるように老人に言った。ともあれ、これでカスウィザードは行き帰りの輸送の問題を解決したわけである。あとは積み荷だが、これは彼の父が商売をしていた時の余りの資材が倉庫にまだそれなりにあるので、そこから使える物は使わねばなるまいと考えて、カスウィザードは借りたてのロバを連れて、いったん家に戻ることにした。
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登場人物紹介

剣士カスウィザード  元魔法使い志望、元おぼっちゃま。現在は貧乏剣士(駆け出し)。駆け出しの分際で、ドワーフの名工キリクの手になる名剣『雷神の剣』を、喉から手が出るほど欲している。


美女タニア ?


魔導士ポナン 悪道に落ちた、元大魔法士

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