第16話

文字数 827文字

パックもイルカに気やすく声をかけた。

「キー坊、久しぶりだな。前に会ったのは、おれがあの図書館に閉じ込められる前だから、百年ぶりか。それにしても、お前も変わらねえなあ。相変わらず元気そうじゃねえか」

「おかげさまで。パックの大将こそ、どうしたい、そんなひよっこと連れ立ってよう?ベビーシッターの仕事でも始めたのかい?」

「そう言うなって。永い永い人生、いや妖生か、おれは暇つぶしに事欠くこともない、それはこういうおせっかいを焼くからなんだよ。いまはこのおぼっちゃまのお守りが、このおれの暇つぶしなのさ」

「暇つぶしだと?!」思わず口をはさむカスウィザード。パックは小さな声で「しっ、黙ってな」と言い、また朗らかな声で川のイルカに語り掛けた。

「時にキー坊よ、折り入ってあんたに頼みがあるんだ」

「なんだい?大将の頼みなら何だって聞くよ、時と場合にもよるけど」

「うん、なら気安く言うけどね、この人とロバを、向こう岸に連れて行って欲しいんだ」

イルカは眉(?)をひそめた。

「そいつは・・・『時と場合』だなあ・・・」

「そういわずにさ、頼むよ!」

「ううむ・・・ううむ・・・」

なおも渋るイルカの鼻先で、パックは腰をぶるぶる振るわせながら奇妙な踊りを始めた。

「お!そいつは『パックパックダンス!』小人族に伝わる秘伝の踊りじゃねえか!ここでそんなものが見れるとはなあ。よし分かった。大将、他ならぬあんたの頼みだ、この御仁を無事、向こう岸まで渡して進ぜよう」

「やった、ありがとう!」喜ぶパック。

(しかし、このイルカの背に乗って向こう岸にわたると言っても、この背は少々小さすぎるがな・・・)内心つぶやくカスウィザードの目の前で、イルカはみるみる膨れ上がった。

「さあ、乗んな!」声まで少しぼわぼわしたものに変わったイルカにうながされ、目を丸くしながらもロバの手綱を取って、今や大きな大きなイルカの背なかの上に乗り込んだカスウィザードであった。

こうして、彼らは眼前の巨大な川を渡りおおせた。

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登場人物紹介

剣士カスウィザード  元魔法使い志望、元おぼっちゃま。現在は貧乏剣士(駆け出し)。駆け出しの分際で、ドワーフの名工キリクの手になる名剣『雷神の剣』を、喉から手が出るほど欲している。


美女タニア ?


魔導士ポナン 悪道に落ちた、元大魔法士

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