第10話
文字数 976文字
カスウィザードは、ロール状の干草を三つ、一番大きなずた袋に詰めた。それから、家の井戸の水をくんで、大きい方の革袋に詰めた。小さい革袋に保存食を詰め、ランタンやロープなどの道具類は大きなリュックに詰めて背負えるようにした。
たちまちのうちに夕刻がやってきて、そして夜のとばりが降りる頃、カスウィザードの母が夕食の支度が出来たよと呼びに来た。久々のごちそうだった。火食い鳥と人面ニンジンのシチュー、おぼろおどろろ豆腐、スパイラルハーブと長鼻豚のしゃぶしゃぶサラダ。どれもカスウィザードの大好きな、母の手料理だ。喜んでがっつくカスウィザードを、母親は心配そうな顔で見つめて言った。
「危険な旅に出るんだろう?生きて帰ってくるんだよ。命が一番大切な宝なんだからね」
カスウィザードはうなづいたが、若い彼は考えていた。命より大切なものもあるのではないか、と。それが何なのかは明確には分からなかった。だが、彼の誇りは頑強に主張した。命に代えても、俺は雷神剣を手に入れねばならない、と。
彼は言った。
「おれはどうしても、あの雷神剣を手に入れたいんだ。俺の計算では、あの剣さえあれば、クラーケンと渡り合える。海のクラーケン討伐は、おれの夢の足掛かりになるはずなんだ。おれはクラーケン討伐で認められて、公認退魔官の資格を手に入れるんだ」
「公認退魔官て、あの?」
「そう。世界各地を経めぐり、それぞれの土地を悩ませている魔物を倒していく、国際的なライセンスだよ。この資格があれば、すべての船便がほぼ予約なしで使え、連盟に加盟している宿は無料、しかも遍歴の騎士を名乗る事を許され(名刺にもそう書ける!)、年給までもらえるという、まさに夢の如き資格なんだ」
「あんまり高望み、するでないよ。命が一番なんだからね」
母は息子の野心を、頼もしいと思うよりも気苦労の種の一つくらいに考えているのかもしれなかった。生活に関しては、彼女もまた考えるところがないではなかった。だが、彼女の信条「命が一番大事」は、子を持つ親として、ゆるぎないものだったのだ。
その夜、カスウィザードは眠れなかった。偉大なる小人の王パックは、さすがに大したもので、カスウィザードのベットのそばに自分で敷いた手ぬぐいの布団にくるまって、いびきをかいて眠っていた。
次の日の朝、まだ日も昇りきらぬころ、彼らは無謀な初陣に出かけた。
たちまちのうちに夕刻がやってきて、そして夜のとばりが降りる頃、カスウィザードの母が夕食の支度が出来たよと呼びに来た。久々のごちそうだった。火食い鳥と人面ニンジンのシチュー、おぼろおどろろ豆腐、スパイラルハーブと長鼻豚のしゃぶしゃぶサラダ。どれもカスウィザードの大好きな、母の手料理だ。喜んでがっつくカスウィザードを、母親は心配そうな顔で見つめて言った。
「危険な旅に出るんだろう?生きて帰ってくるんだよ。命が一番大切な宝なんだからね」
カスウィザードはうなづいたが、若い彼は考えていた。命より大切なものもあるのではないか、と。それが何なのかは明確には分からなかった。だが、彼の誇りは頑強に主張した。命に代えても、俺は雷神剣を手に入れねばならない、と。
彼は言った。
「おれはどうしても、あの雷神剣を手に入れたいんだ。俺の計算では、あの剣さえあれば、クラーケンと渡り合える。海のクラーケン討伐は、おれの夢の足掛かりになるはずなんだ。おれはクラーケン討伐で認められて、公認退魔官の資格を手に入れるんだ」
「公認退魔官て、あの?」
「そう。世界各地を経めぐり、それぞれの土地を悩ませている魔物を倒していく、国際的なライセンスだよ。この資格があれば、すべての船便がほぼ予約なしで使え、連盟に加盟している宿は無料、しかも遍歴の騎士を名乗る事を許され(名刺にもそう書ける!)、年給までもらえるという、まさに夢の如き資格なんだ」
「あんまり高望み、するでないよ。命が一番なんだからね」
母は息子の野心を、頼もしいと思うよりも気苦労の種の一つくらいに考えているのかもしれなかった。生活に関しては、彼女もまた考えるところがないではなかった。だが、彼女の信条「命が一番大事」は、子を持つ親として、ゆるぎないものだったのだ。
その夜、カスウィザードは眠れなかった。偉大なる小人の王パックは、さすがに大したもので、カスウィザードのベットのそばに自分で敷いた手ぬぐいの布団にくるまって、いびきをかいて眠っていた。
次の日の朝、まだ日も昇りきらぬころ、彼らは無謀な初陣に出かけた。