第5話
文字数 1,355文字
「おまえ、おれが視えるのかい?」という、ささやきにも似た小さな光の言葉に、剣士カスウィザードはこくりとうなずいた。
小さな光は明滅した。まるで喜んでいるかのように。そしてまた、語りかけてきた。
「ちょっとお願いがあるんだけど、手を出して、おれに触れてみてくれないか?」カスウィザードがためらうと、光はじれったそうに瞬いて、
「お願い!頼むから!なんでもするから!!」と、しつこく懇願してくる。元おぼっちゃまの剣士は、煩わしくなって、無造作に手を伸ばすと、荒っぽくその光に触れた。すると、ポンっという小さな音がして、光が消え、代わって掌の上に、一人の小人がちょこんと座っていた。小人は言った。「やれやれ、やっと元の姿に戻れた。まったく、何たるざまだ。小人族の王たる俺様が、ウィル・オー・ウィスプなんぞに変えられちまうなんて!挙句の果てには、透明化の呪文までかけられて、にんげんの目には見えなくされてしまうんだから!」
と、ひとしきり独語して、カスウィザードの視線に気づく。
「あ、おまえか。礼を言うぞ。ありがとさん。ちとタチの悪い魔法使いに絡まれてな、本来の姿から変えられてしまっていたんだよ。で、なんで元に戻れたのかって?俺に掛けられた、透明化の呪文を打ち破る魔力の持ち主に触れてもらった場合にのみ、この幽閉から解放する、と言われてな。楽勝だと思ったんだけど、そんな奴、百年たっても現れやしねえ。おまえさん、いったいどんな凄い魔力の持ち主なんだ?見かけによらず、相当やるんだろう、あんた?」
「い、いや。俺はただの落ちこぼれだ。今じゃ魔術師ですらない。というか、なれなかったんだ」
「なななんと!!!」小人は心底びっくりしたみたいだった。改めてじろじろとカスウィザードのことをよく観察した結果、
「ううむ、どうもお前の言っていることに嘘はなさそうだな。おまえからは、一流の『覇気』が、まるで感じられん」と、失礼なことを言ってのけた。
「しかし、まあいいだろう。俺はパック。小人族の王だ。お前の冒険に味方するよ。お前、名前は何って言うんだい?」
「カスウィザードだ。もしも助けてくれるんなら、この図書館の案内をして欲しい」
「お安い御用さ! この百年間、ここから一歩だって出られなかったんだからな(畜生あのくそ魔導士め!)。ここはまあ、言ってみりゃ自分家の庭みたいなものさ!」
そうは言ったものの、スフィンクスの攻略法について書かれてある本はと聞くと、あれだったかなこれだったかなと、半日図書館を引きずり回された挙句、
「当たって砕けろだ!いざとなりゃこの小人の王さま、パックの知恵と魔力が付いている。スフィンクスなんぞ粉砕してくれる!」がパックの結論であった。カスウィザードの方も、半日、これはという本を漁り続けて、どうにも本には情報が書かれてはいないのではないかと諦めたのであった。それで二人は、図書館を後にして、いったん家に帰ることにした。パックもついてきたのだが、今となっては『透明化』の魔術が破られているので、カスウィザードの母親にもその姿が見えた。
母親は、小さなスプーンと小皿に、一滴のスープとパンくずを乗せ、「どうぞ召し上がれ」と言った。もちろんカスウィザードも、母親の、質素ではあるが心づくしの手料理にありついたのである。
小さな光は明滅した。まるで喜んでいるかのように。そしてまた、語りかけてきた。
「ちょっとお願いがあるんだけど、手を出して、おれに触れてみてくれないか?」カスウィザードがためらうと、光はじれったそうに瞬いて、
「お願い!頼むから!なんでもするから!!」と、しつこく懇願してくる。元おぼっちゃまの剣士は、煩わしくなって、無造作に手を伸ばすと、荒っぽくその光に触れた。すると、ポンっという小さな音がして、光が消え、代わって掌の上に、一人の小人がちょこんと座っていた。小人は言った。「やれやれ、やっと元の姿に戻れた。まったく、何たるざまだ。小人族の王たる俺様が、ウィル・オー・ウィスプなんぞに変えられちまうなんて!挙句の果てには、透明化の呪文までかけられて、にんげんの目には見えなくされてしまうんだから!」
と、ひとしきり独語して、カスウィザードの視線に気づく。
「あ、おまえか。礼を言うぞ。ありがとさん。ちとタチの悪い魔法使いに絡まれてな、本来の姿から変えられてしまっていたんだよ。で、なんで元に戻れたのかって?俺に掛けられた、透明化の呪文を打ち破る魔力の持ち主に触れてもらった場合にのみ、この幽閉から解放する、と言われてな。楽勝だと思ったんだけど、そんな奴、百年たっても現れやしねえ。おまえさん、いったいどんな凄い魔力の持ち主なんだ?見かけによらず、相当やるんだろう、あんた?」
「い、いや。俺はただの落ちこぼれだ。今じゃ魔術師ですらない。というか、なれなかったんだ」
「なななんと!!!」小人は心底びっくりしたみたいだった。改めてじろじろとカスウィザードのことをよく観察した結果、
「ううむ、どうもお前の言っていることに嘘はなさそうだな。おまえからは、一流の『覇気』が、まるで感じられん」と、失礼なことを言ってのけた。
「しかし、まあいいだろう。俺はパック。小人族の王だ。お前の冒険に味方するよ。お前、名前は何って言うんだい?」
「カスウィザードだ。もしも助けてくれるんなら、この図書館の案内をして欲しい」
「お安い御用さ! この百年間、ここから一歩だって出られなかったんだからな(畜生あのくそ魔導士め!)。ここはまあ、言ってみりゃ自分家の庭みたいなものさ!」
そうは言ったものの、スフィンクスの攻略法について書かれてある本はと聞くと、あれだったかなこれだったかなと、半日図書館を引きずり回された挙句、
「当たって砕けろだ!いざとなりゃこの小人の王さま、パックの知恵と魔力が付いている。スフィンクスなんぞ粉砕してくれる!」がパックの結論であった。カスウィザードの方も、半日、これはという本を漁り続けて、どうにも本には情報が書かれてはいないのではないかと諦めたのであった。それで二人は、図書館を後にして、いったん家に帰ることにした。パックもついてきたのだが、今となっては『透明化』の魔術が破られているので、カスウィザードの母親にもその姿が見えた。
母親は、小さなスプーンと小皿に、一滴のスープとパンくずを乗せ、「どうぞ召し上がれ」と言った。もちろんカスウィザードも、母親の、質素ではあるが心づくしの手料理にありついたのである。