第17話

文字数 1,064文字

川を渡り切ったカスウィザードたちの前に、赤色の平原が広がっていた。丈の長さ30センチほどの野草が、一面に生い茂っている。この野草、茎も実も葉も、みな赤い。

カスウィザードは腰をかがめてこの野草を調べていたが、「これは薬草になるやつだな」と呟いた。ナダンの受験の時に勉強した、知識だけで知っていた野草が、目の前に生えているのを見て、経験の浅い彼は素直に感動したのだった。

「摘んでいかんのか?」

すたすたとまた歩き始めた彼に、パックが空中から声をかける。

「ああ。この草の茎から油を抽出して、はじめて賦活のエキスになるのだが、おれには抽出の技術も知識もない。この草を二三本持ち帰ったところで、金にする術を知らないんだ」

「そうか。ま、お前が悪いんじゃないよ。これからひとつひとつ、そういう自活のための知識を身につけていけばいいんだよ」

「小人のお前に慰められるとはな」と、感じ悪く笑うカスウィザード。だが百年から生きている小人の王は大した器で、そのくらいではもはや気を悪くしないらしかった。

赤い平原を突っ切ったところで、再び砂漠が始まっていた。その切れ目のところで彼らは三晩目の野宿をした。

干し草に火をつけて暖を取り、岩に腰掛けて干し肉をかじるカスウィザード。パックは倒木の上にちょこんと腰かけ、小さな木の実を食べている。

「なあ」とパック。

「なんだ?」

「お前、なんで魔導士になるのを辞めたんだ?(俺の見たところでは、素質なくもないぞ)」

「偶然、ある人のことを聞いてな。それにその時、俺はどうしようもなく堕落していたから、なにか肉体的なことで自分を変えたかった、ってのもある」

「ある人って?」

「剣王ゴムリス」

「だれだそりゃ?」

「50年前、彗星のように現れて活躍した、世界最高の剣士だ。剣一つ背負って数々の冒険を重ね、まだ40代のうちに大賢者たちの認識を越える世界観を持っていたという。その人のことを聞いて思ったんだ。認識とは、必ずしも知識だけのことではないんだ、と。図書館にこもってひたすら本を読む事より、剣を片手に冒険を重ねることこそ、認識の高みに到達するための、もっとも確かな方法なんじゃないかって」

「語るねえ」

「っていうか、おれ、落ち着きなくてさ。本は嫌いじゃないんだけど、ずっと集中してるの、苦手なんだわ。ぶんぶん剣振り回してる方がたぶん性に合ってる」

「なるへそ」

「そろそろ寝るか。火、消すぞ」

「あいよ。・・・なれるといいな、お前、その、ゲレムスってやつみたいに」

「ゴムリスだよ。・・・ありがとう」

そして彼らはその晩、深い眠りについた。
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登場人物紹介

剣士カスウィザード  元魔法使い志望、元おぼっちゃま。現在は貧乏剣士(駆け出し)。駆け出しの分際で、ドワーフの名工キリクの手になる名剣『雷神の剣』を、喉から手が出るほど欲している。


美女タニア ?


魔導士ポナン 悪道に落ちた、元大魔法士

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