第30話

文字数 1,051文字

館に着くと、ポナンは、二人の女と共に、大量のお昼を長い時間をかけて味わっているところだった。

カスウィザードが姿を見せると、ポナンは大げさに驚いて見せた。

「放蕩息子の帰還だな、こりゃ」そう言ったなり、ナイフとフォークをカチャカチャ言わせてしばらく食事を続けた。

「で?」やおら頭を挙げて唐突に尋ねる。

「心臓は、取れなかった」

うむうむとうなずいて、「知恵比べはどうだった?」

「ナダンにすら落第した俺が、スフィンクスに知恵比べで勝てるわけもなかろう」と、開き直るカスウィザード。

「だが、これをもらった。あんたなら欲しがるだろうって」そう言って彼は、スフィンクスからもらった二本のキノコを袋から出して見せた。

「ほうほう、なかなか珍しい。こいつはなかなか貴重だぞ。一万キロロで買い取るが?」

「一万キロロ?安くないか?」

「嫌なら他を当たってくれ」

「いや、頼む」

「アナン、カナン。おぼっちゃまからキノコをいただいて、お金を持ってきてあげなさい」

みじめな気持ちで金を受け取り、背嚢の口を開けて受け取った貨幣を入れるカスウィザード。十日間の、命を懸けた冒険の代償が、わずか1万キロロとは。だがその時、ポナンが顔をしかめ、くんくん鼻をうごめかせた。

「む、何だこの臭いは?」

その時カスウィザードは思い出した。スフィンクスの館で拾った糞を、捨ててくるのを忘れていたことを。

「失敬、食事中だったな。これにておいとまする」

「まま、待て待て。何の臭いかと聞いてるんだ。まさかお前」

「ああ、スフィンクスの糞だ」

「スフィンクスの糞だと!!!!!」

「どうかしたか?」

「どうかしたか、もあるもんか。まったくこれだから、世間知らずのお坊ちゃまは。猫系モンスターの糞は、麝香と言って、燻らして香りを楽しむのがセレブの間での流行なのさ。なかでもお前、スフィンクスともなると、入手の困難さも相まって、最高級品とされているんだ」

「そうか」と言って、乾燥した糞を入れた袋を取り出すカスウィザード。ポナンはナイフとフォークを置き、その袋をカスウィザードから奪い、中を開けてみた。『香ばしい』においがかすかに部屋に漂う。

「うううんん、デリシャス!!状態も程よい。これなら一級品で流通するな」禿げ頭をなでながら、ぶつくさ言うポナン。

「買ってくれるのか?」

「勿論だとも。30万キロロでどうだ?」

「うむ。ありがたい」

「アナン、カナン、金貨をお持ちしろ。30万キロロ分のな!」

こうして、駆け出しの剣士カスウィザードは、冒険の成果を、ひょんな形で受け取ることになった。
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登場人物紹介

剣士カスウィザード  元魔法使い志望、元おぼっちゃま。現在は貧乏剣士(駆け出し)。駆け出しの分際で、ドワーフの名工キリクの手になる名剣『雷神の剣』を、喉から手が出るほど欲している。


美女タニア ?


魔導士ポナン 悪道に落ちた、元大魔法士

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