第6話

文字数 643文字

カスウィザードの部屋は、かつては豪華な品々で満たされていたものだが、今は粗末なベッドが一つと肉体改造用の魔ベンチプレスが一つ置いてあるきり。その魔ベンチプレスも、粗末なベッドも、かつての使用人が彼ら母子を憐れんで置いていったものだった。

夕食後、魔ベンチプレスで日課の肉体改造に励みだしたカスウィザードに、パックが声をかけた。
「おまえ、魔導士おちこぼれって、本当かい?」
「ふんっ、そう、すんっ、さっつ、ふんっ、ふんっ、だって、ふんっ、ナダンに落ちたっ」
「そうか・・・で、いまはなにしてんの?」
カスウィザードは、魔ベンチプレスから起き上がって、言った。
「見りゃわかるだろ?鍛錬だ!スフィンクスに勝たねばならないからな!」
「・・・おまえな。極端なんだよ。脳筋でスフィンクスに勝つには、剣士のレべルで言うと、達人クラスじゃなきゃ無理だぞ。そんな付け焼刃の筋トレでかなうわけないだろう?」
「達人への道も、始めの一歩があったはずなんだ」
「なんだそりゃ?」
「基本をおろそかにするやつは、スフィンクスだろうと小人の王様だろうと、容赦しないわ!」
「まじめだな」
「俺は本来まじめだったんだ!それをあの邪道士の奴が悪の道に引きずり込みやがって…。」
「邪道士?って、まさか・・・」
「そうだ、邪道士ポナンだ!」
ポナンの名を聞くと、小人の王パックは何か思うところがあったようで、それからはもう、カスウィザードに話しかけなかった。おかげでその夜、カスウィザードは寝るまでに魔ベンチプレスをあと一万回することが出来た。
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登場人物紹介

剣士カスウィザード  元魔法使い志望、元おぼっちゃま。現在は貧乏剣士(駆け出し)。駆け出しの分際で、ドワーフの名工キリクの手になる名剣『雷神の剣』を、喉から手が出るほど欲している。


美女タニア ?


魔導士ポナン 悪道に落ちた、元大魔法士

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