第31話

文字数 1,327文字

それから、カスウィザードたちは家に帰ってきた。夕日が家の屋根を黄緑色に照らしていた。安物の木のドアをノックすると、母がドアを開けた。彼らの姿を見た途端、母は破顔し、顔をくしゃくしゃにして愛する息子を抱きしめた。

カスウィザードは言った。「冒険は、成功したよ、かあさんからもらった命も、まだここにある」

泣き声で、母は言った。「親を心配ばかりさせて。お前は本当にわがままな息子だわ」

カスウィザードは言った。「でも、わがままでも、ちゃんと自分の道を見つけて歩いているんだ。これは、変な言い方だけど、父さんが死んでくれたおかげだよ。父さんが生きていた時は、俺は甘えて、父さんの財産を当てにして、何がやりたいかにも目を向けず、努力という事もしなかったのだから」

「・・・・・・」

母はふと、カスウィザードから身を放して、「お前が帰ってきたのだから、食事の支度をしなくちゃね」と言って、台所に向かった。カスウィザードは持ち帰ったロック鳥の卵を料理してもらおうと、革袋を放置したままの中庭に戻った。


みずから斧で薪を切り、湯を沸かして桶で湯あみした後、素朴だが心づくしの料理であたたかな夕食が始まった。カスウィザードは冒険のあれこれを話した。スフィンクスと最終的にキノコパーチーに及んだことを聞いているとき、母は黙って眉根を寄せていたが、その糞が高値で売れたことを聞くと、頬に手を当てて大笑いした。彼は十日ぶりに緊張がほどけていくのを感じていた。おなかが一杯になると、自然と眠気が襲ってきて、彼は食べ終わるとすぐ寝床に就いた。

翌日の朝、彼は食卓のテーブルの上に、ポナンからもらった金貨と銅貨を積み重ねた。「これが冒険の成果かい?ずいぶんと稼いだわね」と母が目を丸くする。彼は机の上の貨幣の内から5万キロロ分だけを取り分とし、残りは生活費と貯蓄に回してくれと言った。

朝食を済ませると、彼はパックと連れ立ち、5万キロロ分の金貨を革袋に収めて商業区に出かけた。十一日ぶりに、彼は武器屋の店先に立った。武器屋の主が彼に気づいて、「おや、戦士殿。また雷神剣を見に来られたんですかい?」と声をかけた。カスウィザードは言った。「ああ、見るだけな」「?」武器屋の主は、カスウィザードの声音がすでに先日とは違ったものになっていることに気づいて、様子を改めた。カスウィザードはちらと雷神の剣を見上げた後、店の様々な武器に目を走らせた。店主が聞いた。「どのような武器をお求めで?」「樫の木の刀が欲しい。それから鋼で出来た短刀を一本」「木刀?・・ええ、ええ、ありますとも。一番良い品をお持ちしましょう。それから、鋼の短刀、と」

差し出された木刀は、かすかに反り返っていた。店先から少し離れて、軽く振ると、ひゅんと風を斬る音がした。「これでいい」「短刀と合わせて、二万キロロいただきます」彼は革袋から金貨を取り出し、店主に渡した。

品物を背負って、店先を離れるカスウィザードに、店主は声をかけた。「だんな、強くなって、にんげんをいじめるモンスターどもを懲らしめてやってください!」そう言って店主は力こぶを作った。カスウィザードは振り返り、ああ、と言って会心の笑みを浮かべた。

(終わり)
(次のお話に続きます)
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登場人物紹介

剣士カスウィザード  元魔法使い志望、元おぼっちゃま。現在は貧乏剣士(駆け出し)。駆け出しの分際で、ドワーフの名工キリクの手になる名剣『雷神の剣』を、喉から手が出るほど欲している。


美女タニア ?


魔導士ポナン 悪道に落ちた、元大魔法士

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