第19話
文字数 894文字
石の扉は、太陽の熱を浴びて暖かかった。カスウィザードはそれに触れた時、スフィンクスの心臓の温かさを思い浮かべた。
おれはいまから一匹の生き物の命を奪いに行くのだというおののきが、冷気のように彼の全身を貫いた。覚悟を固めて、彼は石の扉を押した。重く大きな石の戸は、横開きに開いた。
館近くに突き出ていた固い枯れ木にロバを縄で止めて、彼らは館の中に踏み入った。
館の中は暗く、冷え冷えとしていた。大広間だった。この広間には、毛足の長い絨毯が敷かれていた。室内は辛うじてあたりを見渡せる程度の明るさだった。
絨毯の毛に、ところどころ何かが絡みついていた。湿って、水溜りになっている場所もあった。
カスウィザードはかがんで、その黒い小さな物体をつまんでみた。途端に彼は顔をしかめた。「糞、だな」
パックが複雑な顔をして言った。「あのカラス男のものかな?それとも、スフィンクスの?」
「両方混じっているんだろう。カラス男のやつ、従者だというなら自分が片付ければいいものを」
「スフィンクスって、あんまり厳しいボスじゃないのかな?」
「さあな」
彼らは奥に進んだ。奥の間に、大きなライオンの体をした人面の獣が座っていた。その横に、寄り添うようにして人面の大烏が立っていた。
人面の獣は吠えた。
『待ちわびたわよ、ニンゲン。あたしに頭をご馳走してくれるんだって?でもね、ぶよぶよの不健康な肉体は嫌よ。ムキムキのキン肉マンの肉体か、成績優秀なガリガリのガリ勉のあたまをいただきたいわ』
カスウィザードは落ち着き払って返答した。
「残念だったな。ここにいるのはただの落ちこぼれだ」
スフィンクスはにやりと笑った。
『あら、残念ね。でもまあ、仕方がないか。このあたしもモンスタァの、落ちこぼれだもの』
カスウィザードはあくまでクールを装って言った。
「早速だが勝負をしよう。謎掛けで、おれが賭けるのはこのポンコツの頭と鍛え始めたばかりの肉体。あんたが負けたら、悪いがあんたの心臓をもらう」
『いいわよお。だってあたし、心臓なんて十個からあるんだもの。一個ぐらい、取られても平気』
「嘘だろ?!」
スフィンクスは、それこそ謎のように、ふふふ、と笑った。
おれはいまから一匹の生き物の命を奪いに行くのだというおののきが、冷気のように彼の全身を貫いた。覚悟を固めて、彼は石の扉を押した。重く大きな石の戸は、横開きに開いた。
館近くに突き出ていた固い枯れ木にロバを縄で止めて、彼らは館の中に踏み入った。
館の中は暗く、冷え冷えとしていた。大広間だった。この広間には、毛足の長い絨毯が敷かれていた。室内は辛うじてあたりを見渡せる程度の明るさだった。
絨毯の毛に、ところどころ何かが絡みついていた。湿って、水溜りになっている場所もあった。
カスウィザードはかがんで、その黒い小さな物体をつまんでみた。途端に彼は顔をしかめた。「糞、だな」
パックが複雑な顔をして言った。「あのカラス男のものかな?それとも、スフィンクスの?」
「両方混じっているんだろう。カラス男のやつ、従者だというなら自分が片付ければいいものを」
「スフィンクスって、あんまり厳しいボスじゃないのかな?」
「さあな」
彼らは奥に進んだ。奥の間に、大きなライオンの体をした人面の獣が座っていた。その横に、寄り添うようにして人面の大烏が立っていた。
人面の獣は吠えた。
『待ちわびたわよ、ニンゲン。あたしに頭をご馳走してくれるんだって?でもね、ぶよぶよの不健康な肉体は嫌よ。ムキムキのキン肉マンの肉体か、成績優秀なガリガリのガリ勉のあたまをいただきたいわ』
カスウィザードは落ち着き払って返答した。
「残念だったな。ここにいるのはただの落ちこぼれだ」
スフィンクスはにやりと笑った。
『あら、残念ね。でもまあ、仕方がないか。このあたしもモンスタァの、落ちこぼれだもの』
カスウィザードはあくまでクールを装って言った。
「早速だが勝負をしよう。謎掛けで、おれが賭けるのはこのポンコツの頭と鍛え始めたばかりの肉体。あんたが負けたら、悪いがあんたの心臓をもらう」
『いいわよお。だってあたし、心臓なんて十個からあるんだもの。一個ぐらい、取られても平気』
「嘘だろ?!」
スフィンクスは、それこそ謎のように、ふふふ、と笑った。