第27話

文字数 7,598文字

27・ その翌日

 雨は止んだ。夜が白み始めていた。
 白羊城の上は、冷えた重苦しい空になっていた。その下でハルフ広場は、慌ただしさの真っ最中だった。何台もの大型馬車が待機し、衛兵達が出発準備をし、馬丁達は馬車の整備に追われていた。いたるところで大人数の大声が交錯していた。
 そこへ今、さらに声が加わった。甲高い大騒ぎの声が、南棟の入口から響いてきたのだ。急遽の事態に化粧も無く、手元の品だけを抱えた女達が、大階段を降りて来たのだ。
「奥様の寝室の右奥にある茶色の衣装箱は、一番最初に運んで。今すぐに必要になる胴着が入っているの」
「棚の組木の文箱も。御実家からの大切なお手紙が詰まっているから。あと寝台横の壁に掛かっている聖女アーニサの絵も、お輿入れの時にガルビーヤから贈られた品だから、絶対に傷をつけないで。大切に扱ってっ」
「私達の部屋にある木棚は? そのまま運べる? 先に運べる?」
「だってあの棚が無いと私達、もう今夜から困るのよっ、お願いっ、最初に運んで!」
 真夜中に突然に叩き起こされ、ラーヌン公の疫病・公妃の避難の決定を聞かされた。それらずっと、侍女達の大騒動が続いている。唐突の引越に、夢中で男達に指示と依頼と文句を言い立てている。
 これらに紛れて、小さな泣き声が聞こえていた。
「嫌だから……、城から出ないから……」
 この期に及んで、まだマテイラ公妃は言い続けてた。だがもう誰も聞かない。白羊城の要人達に囲まれ、侍女達に手を取られ、彼女は広場に進まざるを得なかった。
「出たくない、白羊城を離れたくない。だって――もしカイバート様……殿に万一が起きたら――聖女様――嫌です、そんな事になったら、二度と会えなくなってしまう……」
 一晩に渡って同じ事を言い続け、泣き続けた。
「残りたいのに――白羊城に。去るなんて嫌だから……」
 そのまま広場の石畳に座り込もうとし、ついに最年長の侍女が怒った。苛ついた大声で正論を発したのだ。
「お腹の御子の事を一番に考えなさいっ。それでも母親ですかっ」
 受け入れざるを得ず、それでもどうしようもなく泣き続け、侍女達に背中を押されながら、マテイラは馬車に乗った。それでも求めるよう、真っ赤の目で広場を見回す。そこに、馬丁頭と打ち合わせていた老将を見つける。
「ジャクム将っ」
 白羊城の古参の傭兵武将はすぐに寄ってくると、馬車の窓越しに対峙した。すがるように公妃は訊ねた。
「大丈夫よね?」
 その顔から、普段の輝く美貌が消えている。
「だって、疫病に罹っても、神の御加護を受けて回復する人は大勢いるもの。特に殿はお若いし、体力も気力も充分にある方だし。……だから――大丈夫よね?」
「――」
 あの方は壮健の体質と圧倒的な生命力をお持ちですから大丈夫です、との模範回答を、ジャクムは返さない。
 その代わりにまだ考えている。彼女、そして彼女の腹の子、そして自分の命運を。つまり、もし今勇気を出したら、と。勇気を出して幸運の女神を掴み捕えたら、と。今、かつてのアイバースと同じ行動に出たら、と。
 もし今すぐ。いち早く。誰よりも早く、この公妃の身柄を手元に確保してしまったならば。そうしたら、公主が不在となったラーヌンという国を掌中に出来る。この白羊城の主になれる。と。
 そしてやはり、否定する。それが今のこの公国の為にならないと判断して。
「大丈夫です、だってあのカイバート様ですから」
 模範解答は、横に現れたマラクから発せられた。
「どうあったってそう簡単に死ぬような人じゃないです。あの人は」
「……そうよね。このままお別れになるはずないわよね……」
「ええ。そういう人です。死神にも嫌われていますから」
 マテイラは笑おうとし、でも笑えない。死という単語が怖い。つい先刻まで自分を包んでいた幸福の全て奪っていく悪魔の単語を考えると、怖くて笑えない。
 一方のマラクも、考えている。傭兵将と同じく、この女性のお腹の子がラーヌンの将来に影響を与えるかもしれない事を内心で考えている。だから昨夜素早く、公妃の避難と避難場所を提案した。それに自分も同行すると名乗り上げたのだ。
(大事なのは、すぐに白羊城を離れる事。そして公妃の近くに居る事。出来る限り公妃と仲良くしておき、そして公妃に男子を産んでもらう事)
 それからもう一つ。考えている。
 偶然にも、これも昨夜だった。秘密でキジスラン公子に送っていた手紙に、公子から返信が来たのだ。
 そこには凄まじく要領を得ない文が、長々と綴られていた。的を射ず読みにくい、回りくどい長文が続いていたのだが、まとめればつまり。
『アイバース父公の死について、本当にカイバートは関与していないのかを、本人に訊いて確かめて欲しい。それから、彼が父公に対して、それから自分に対して、本当のところはどう思っているのかも。それから――。
 ザフラ城館で自分に語った事についても。あれは本当に本当なのか? 記憶違いも――嘘も入ってないのか? これも訊いて欲しい』。
 こんな面倒を呼びそうな質問、いくら親しい俺だって訊ねられる訳ないじゃないか。さあどうしよう、どう返事を書くのが一番自分の利になる? と、考えを巡らしていたところだったのだ。
「マラク。先頭の馬車に乗れ」
 振り返るとイブリスの長身があった。
「早く行け。こちらから連絡するまでザフラ城館に留まって動くな。指示を出すまで公妃の傍に留まり続けろ。いいな?」
 いつも通りの淡然の口調だ。だがマラクは鋭敏に見抜いた。
 イブリスは今、動揺している。長らく白羊城の頭脳となってきた冷静の男が、しかし今、己とカイバートとで築いてきた輝かしい時間が終りゆくのを哀しんで、動揺している。それでも白羊城を護るべく、懸命に思索している。
 そこまでをマラクの鋭い眼は、簡単に察知した。
「分かった。行ってきます」
 敢えてにっこりと応えた。先頭の馬車へ小走り、御者台に座った。
 ごとりと音を立てて馬車が動き出す時、マラクは振り返る。雨上がりの分厚い雲を背景に、長い栄光を誇る白羊城の全景が、視界一杯にそびえ立った。
(そうか。下手を踏めばもうここに戻ってこられないかも知れないんだな)
 漠然とそう思った。視界の中から、白羊城が動いていった。

 タリアは今朝も独りだった。
 犬だけを傍に自室に座っていた。窓の外にある水の止まった水盤に、静かに目を向けていた。
 夜明けの少し前、白羊城から夜行の急使が駆け込んできた。
『カイバート新公が疫病に罹患。今すぐに妊娠中の公妃をそちらに避難させたい』
 数少ない住み込みの家人達が、大騒ぎを始めた。館中の松明と燭台に火を灯して、受け入れの準備に追われた。使ってなかった部屋を掃除したり、燃料と食物の貯蔵を確認したり、厨房の水を汲み足したり……。
 その間、女主人のタリアは何もしなかった。最小限しか喋らず、動くこともなく、夜着からの着替えすら家人に急かされてようやく行なった。
 独り、自室に籠り続ける。
 空が白み、重い灰空が浮かび上がる。部屋の外では、家人達の立てる慌ただしい物音が続いている。途中、『奥方様、お食事はどうされますか』との声も聞こえたが、要りませんとだけ返す。時間はゆっくりと進み、うるさい物音と重い雲が続いている。
 気付いた時、通廊に大人数の声が響き出した。ついに一行が到着したのだ。つまり、
「奥方様。マテイラ公妃がいらっしゃいました。どうぞ大客間にいらして下さい」
 重い空の下に、彼女がやって来たのだ。
 ……
 彼女は、泣いていなかった。
 ただ疲れ切った様で、長椅子に座っていた。力ない目を床の敷物に落としていたものを、自分が入室するや、いきなり立ち上がった。抱き着いてきたのだ。
「タリア夫人! タリア夫人っ、殿が――カイバート様が……!」
 その瞬間、相手の膨れた腹の圧を下腹部に感じた。
「疫病なんて……! 殿が死んでしまうなんてそんなの嫌っ。あの方を失うなんて、そんなの怖いっ。怖くて――どうすれば……殿がいなくなったら私……!」
「……。そう」
 ゆっくりと、タリアは身を離す。あらためて相手の顔を見る。
美貌が薄れているのが分かる。全く唐突の厄災への怯え・恐怖・不安・悲哀を、そのまま表している。その憐れな顔に、何か小さな感情が胸に生じ始める。何の感情だろう?
 分かった。
『いい気味』だ。
 全てに恵まれ幸福しか知らない彼女が突然に堕とされたことが、いい気味だ。快感だ。自分を蔑んだカイバートと共に、このまま底まで堕ちれば良い、ざまあみろと思った。そんな自分に驚き、と同時に自分が可笑しかった。
 と同時に、憐れみを覚えた。
 気の毒な彼女は、再び白羊城に戻れるのだろうか。昨日まで一片の曇りも無かった場に、愛する夫の許に、子供産み育てるのを待つ幸福な時間に、再び戻れるのだろうか、と同情を覚えた。
「貴女が白羊城に戻れますように」
 口が素直に告げた。なぜ?
「戻って、元通りの幸福を取り戻せますように。その時まで、お腹の御子には充分に気遣ってここで過ごして」
 自分の本心? そんなはず無いのに。
 優しい言葉にマテイラは頷く。泣き止んでいた目がまた涙を落とし出す。周囲にいた侍女達が一斉に、そうですよ、気を強く持って、今はお腹の事だけを考えてと声がけ、それにマテイラは一生懸命頷いている。その感動の図を見ながら、今度は可笑しさを覚える。
「そうね。マテイラ公妃。――白羊城に戻れると信じて」
 可笑しくて、笑んでしまう。なぜ? ああ。解った。
 もうどうでも良いんだ。
 この美しい女性が白羊城に戻ろうと戻れまいと、幸福に戻ろうと奈落に落ちようと、どうでも良い。自分は白羊城には戻らない。それだけだ。あとは皆がそれぞれに好きにすれば良い。
 公妃と侍女達は、麗しい感動の光景を作り続ける。タリアは無言で室内を背にした。通廊に出ると、馴染みの顔が待っていた。
「俺が公妃に同行することになりました。よろしくお願いします」
 さしものマラクも、今は生真面目の顔だ。それにも可笑しさを覚えた。思わず微笑んでしまった。
「久しぶりね。マラク。――それで? ラーヌン新公は、相当に危ない病状なの?」
「疫病ですからね。まあカイバート様は若いし体力もある人だから、助かる見込みも充分にありますけど……。でも今ラーヌンは、それだけじゃ済まなくて。
 もっと心配なのは、キジスラン公子の方です」
 いきなりの名前に、ぴくりと目蓋が強張る。
「公子と、同盟側です。奴らの軍勢の進攻です。ずっと交渉で片づける道筋を作ってきたのに、ラーヌン公危篤の件で状況が変わってしまいました。好機と付け込まれて、実戦を仕掛けられるんじゃないかと、本当に公国内に戦闘が起こるんじゃないかと、ここだけの話、イブリスもジャクム将もかなり焦っているみたいです。
 でも、貴女様なら大丈夫ですよ」
「……え?」
「だって、キジスラン公子とは仲が良かったし。それにこの城館は、キジスラン公子の御生母が住んでいたんでしょう? 敵方もここに踏み入ってくるような事は絶対にしませんよ。だからマテイラ公妃の緊急の避難場所をここに決めたんです。俺がそう提案したんです」
「……」
「大丈夫。貴女様は事態がどう転んでも安心です。問題ありません」
 俺もまた、問題ありません。カイバート公が没してキジスラン公子の同盟側が勝利しても大丈夫なよう、とっくに道筋をつけてますとは、口にしなかった。代わりに秘かな笑顔で秘かな自信を見せつけた。
 厨房係がやって来る。奥様、皆様へお食事の準備が出来ていますと声がけた途端、マラクの方が反応した。食べますっ、皆を呼んできますよ!と答えて、通廊を走り出してしまった。
 タリアはその場に残された。急に人が増えて騒々しくなった通廊に立ったまま、さあ、何を考えよう? と考え始めた。答えが解らなかったが、不思議と顔に複雑な笑みが浮かんでしまっていた。
 ……
 その夜。
 マテイラは、泣いた。見知らぬ城館の夜に怯えて、嗚咽するように泣き出してしまった。また言ってしまった。
「もう白羊城に戻れないかもしれない……」
 駆け付けた侍女達が、そんな事あるものですかと繰り返す。新公は直ぐに回復します。回復したら、すぐに城に戻れます、また昨日までと同じ楽しい日々が戻ってきますと言いふくめるが、公妃は泣き止まない。
 侍女の一人が、タリアの部屋へ駆けつけた。貴女様から是非、公妃を慰めて欲しいと願い出たのだが、
「お悩みがそこまで深刻なのであれば、今は部外者となった私が出て行かない方が良いでしょう」
 タリアは柔らかく断りをいれた。代わりに、
「柔らかくて温かいから、撫でていると落ち着きますよ」
 自分の愛犬を送り出したのだ。
 結局マテイラは侍女達に囲まれながら、犬を撫でながら、涙を落としながらもようやく眠りについていった。
 ――そして翌朝。
 彼女は、腹の痛みを訴えた。
 ザフラ城館が騒ぎに陥る。時間が経つにつれて苦痛は酷くなってゆく。どうやら、早産の恐れとなった。

           ・        ・         ・

 あの夜からずっと、白羊城の一室で全ての窓は閉じられいた。
 隙間の光も遮る為に、分厚い布も掛けられ、薄闇になっていた。代わりに最小限の燭台が灯されていた。むっとする程焚かれた薬香の中を、防疫用の黒いマントと白い面を付けた医療者達が、音を立てずに歩き回っていた。
 彼らは、万全をもって看護にあたっている。主治の医師の指示の許、患者の高熱の顔を冷やし、汗だらけの体を拭き、苦痛に歪みながら目を覚ました時には容態を訊ね、水と薬とスープを飲ませ……。昼夜を問わず、片時も離れずに看護し続けている。
 その、一人だった。
 タビウ青年は、丁寧に体を拭いていた手を止めた。熱と苦痛に苛まれながら目を閉じている患者を、じっと見た。
「……」
 揺れる燭台の灯に、赤味を帯びた体の陰影も揺れている。音の消えた静けさの中に、視線を動かしていく。顔から脚へとじっと見てゆく。昨日あたりから少しずつ覚えだして来た疑念が、じりじりと高まっていく。
「――」
ちょうど室内からは、同僚達が退出していた。背後では師である医師が、分厚い医学書を広げて黙読していた。彼は医師と二人きりだった。
「先生」
 躊躇は覚えた。だがタビウは言った。
「……。おかしいのではと」
「何がだ」
「ラーヌン公の病状です。疫病ならば、手足の付け根が浮腫み、皮膚に濃い変色が生じるはずです。しかし未だにそれが出ない。実は新公は、疫病ではないのでは?」
 白面で見えない表情が厳しくなったのが分かった。だがタビウは恐れずに続ける。
「私の様な若輩が口出し、申し訳ありません。しかしながら、見ている限りそうとしか思えません。是非先生の御意見をお聞かせください」
「若くて体力がある患者だ。それが病状の進行をくい止めている」
「確かにそれはあると思います。ですが、しかし、それにしても……。
それに、カイバート公以外の疫病患者が、白羊城は勿論ラーヌン市内にも一人も出ていないというのも気になります」
「公国の外では流行地が出ているではないか。ラーヌン公は頻繁に外地に赴き、また連日各地からの来訪者と接見していたそうだ。感染しておかしいことは何も無い。――医療の経験もろくに積まない未熟者が。口を慎め」
「でも、だとしても、それならば新公と共に行動していた側近者達は誰一人発病していないという事実はどうでしょう? 私には何とも奇異――」
「口を慎めと言った!」
 激しく叫んだのだ。
「くたばれ! 貴様如きが口出すな!」
 信じ難いことに、病人がいる場で怒鳴ったのだ。バタンと巨大な音を立て、ぶ厚い書を机に叩きつけたのだ。この時、タビウの脳内に直感のように一つの単語が走った。
“毒”。
 視線をラーヌン公に戻した。薄暗い寝台の上、荒い息を吐きながら戦い続けていた。

           ・         ・        ・

 脱力したかのよう、だらりと、茫然と、背当てに身を預けていた。
 が、また眼を剥いた。また突然、大きく上体を揺らしだした。激しい奇声を上げてキジスランは暴れだした。
「公子、落ち着いて下さいっ」
「触るな! ――騙した――!」
「お願いします。私達は今、ラーヌンへ向かっています」
「騙したくせにっ、ドーライ! 地獄へ行けっ 騙して毒を飲ませたくせに――!」
 馬車は、街道沿いの村の隅に停止している。その車内から無理やり出ようとして、すぐにドーライに席へ押し戻される。すでに彼の手首は捕縛されている。ぼんやりの眠気に襲われていた間に縛られていた。
「騙していません。飲んでもらったのは毒ではなく、安らぎの水です。貴方様の心に落ち着きを取り戻させるための薬水です」
「神に仕える身のくせに――自分を信じろと言ったくせに嘘を――!」
「貴方様に策に沿ってもらう為の、止むを得ない行為です。リンザンから兵の部隊が今、ここへ向かってきます。これと合流し、共に行動をします。すぐに到着しますから従って下さい、でないと――」
「策など地獄に捨てろっ、呪われろ! 早く馬車をっ、急がないと死んでしまうのにっ。アイバース公も一瞬で死んだんだっ、死んでしまう! あの男も直ぐに死んでしまう!」
「理解して下さいっ。貴方が単独で動いて襲撃など受けたら――」
「襲撃などどうでもいいっ、白羊城へ急げ――!」
「殺されたら、カイバート公に会えませんよっ」
 一瞬『会えない』の響きに反応した。キジスランは絶句の顔になった。だがすぐ変わる。今にも泣き崩れそうな弱い顔に変わり、身を曲げて顔を伏せる。また言う。
「頼むから……頼むから急いで……、助けてくれ……」
 泣きかけた声はどんどん大きくなり、そのまま喚きへ、悲鳴へとまた高まってゆく。
「皆、呪われろ――っ、悪魔を呼べ――早く――!」
それはもう異様に達している。横に座すドーライの顔と心中を歪ませる。もう解らないと思わせる。
 兄のラーヌン公との過去に何が有ったのか、解らない。なぜここまで兄との確執に囚われているのか、全く解らない。この囚われた感情のまま、公子の心が今後どうなってしまうのか、もう全く解らない。予測が出来ない。
 自分はこの公子に、何か出来るんだ?
 薬水を飲ませて無理矢理の安らぎを与える以外に、何が出来るんだ? 神の御力にすがる以外に、もう、何も出来ないのか?
「皆地獄へ行け――! 呪われろ! 神様――早く、急げ――もっと――!」
 停止した馬車の周囲で、粗末な家並がぼんやりの薄日を受けている。人けの無い寂れた村の上で、太陽は低く、のろのろと進んでゆく。どんよりと進んでいく。
 憑りつかれた者は、喚き続ける。


【 その七日後に続く 】
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