第28話 あの頃の音楽

文字数 1,092文字

 岡林信康の「金色のライオン」というアルバムを聴いている。ブログで知り合った、Kさんが貸してくれたのだ。
 実に、約30年振りに聴く、岡林。

 まだ小学生だったけれど、相変わらずぼくは学校に行っていなかったので、毎日することもなく、15歳上の兄の買ってきたユーミンや吉田拓郎、泉谷しげるのアルバムなどを、兄の部屋のステレオ装置で毎日聴いていた。
 その中に、この岡林信康の「金色のライオン」があった。

 ユーミンは、女性であったし、何かブルジョワ的な、余裕のある上流階級の人が奏でる音楽のように感じられた。
 子どもながらも、学校に行かない自分というものによって、ぼくは毎日死にたいと考えていたので、ユーミンを聴いていても、ポップすぎるように感じて、しっくり来なかった。
 でも、今も「ひこうき雲」なんかを聴けば、あの頃の空気を身体の奥から思い出す感覚にとらわれる。

「人生」、「生活」、それらを行なう、ミュージシャンの「自我」へのこだわりというか、どうしようもないものが歌詞なりメロディーに、どちらかといえば強すぎるくらい、あってくれる音楽が、好きだったのだと思う。
 兄はロックからクラシックまで、100枚ほどのアルバムを持っていたが、ぼくはフォーク系を好んでいたようだ。
 その中でも、この「金色のライオン」は、とても心に、身体に、残っている。なぜなのだろう。

 まったく、あの子どもの頃に聴いた以来だというのに、そうそう、このメロディー、この言葉!と自然に想起されて、口ずさんでしまう。
 ついでに、「金色のライオン」を聴く前に、ドーナツを食べ過ぎて気持ち悪くなったこと、空気が重い感じの梅雨の季節だったこと、「金色のライオン」を聴こうか「ゲゲゲの鬼太郎」を見ようか迷っていたことも思い出す。

「女郎屋」だの「インポ」だのという言葉が出てくる歌も入っている「金色のライオン」だが、ぼくはその意味を全く分からずに聴いていた。でも、岡林信康という人のつくる音楽が、言葉の不明さを超えて、聴くぼくの体内リズムにマッチして、入ってきた。

 ハーモニカ、エレクトーン、ちゃんと人間の手が叩いているドラム。「はっぴぃえんど」がバック・バンドであった。
 単なる「音」なのだけど、生き生きと、懐かしい。音を出すミュージシャンたちの思い、モラル、信念のようなもの? こういうものは、コンピュータの音では出せまい。

 探していた、廃盤になった泉谷しげるの「家族」も、Yさんがわざわざ中古レコード店で探してくれて、プレゼント、とかいって郵送してくれた。
 持つべきもの、大切にすべきものは、過去の想い出でなく、現在の友達、か…。
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