第8話 セルジュ・ゲンスブール

文字数 1,104文字

 日本では上映禁止になった「ジュテーム・モワ・ノン・プリュ」のDVDが家にある。
 映画監督のゲンスブールといえば、他にも「赤道」(やたら暑い国を舞台に、何もすることもないのでセックスばかりする、けだるい内容らしい)、「スタン・ザ・フラッシャー」(露出狂の男の物語らしい)がある。いずれも未公開で、でもDVDにはなっているのかしら。いずれにしても、変態的な感じは否めない。

 しかしゲンスブールの音楽には聴かせるものがある。フランス・ギャルに捧げた「恋するシャンソン人形」、フランソワーズ・アルディの「さよならを教えて」の詞、ブリジッド・バルドー、ジェーン・バーキンとの「ジュテーム…」
 いつもジタンをくゆらし、タバコは間接的な自殺だと言い、好きなものは?の問いに、メイク・ラブ、スモーク、3番目にシャルロット(実の娘さん)… そして死ぬこと… などと答えている。
 自分の顔の醜さに強い劣等感を持っていたみたいだが、とんでもなくホントにモテた男だった。
 ゲンスブールの曲を聴いていると、「冗談でいいんだよ」と言われてしまう。「いいじゃないか、ひとりで楽しめば」だろうか。何となく行き詰まって、メゲそうな時、気楽になれる。

 フランスのテレビでオン・エア中に、「俺はこれだけ払っている税金をムダ使いされている」という意味で、札束を燃やしてみせた。当時、お金を燃やすのは犯罪だった。テレビ局には多くの抗議が殺到した。傷ついたゲンスブールは、後日、同じテレビ番組で、燃やしたお金の倍額を慈善団体に寄付してみせた。

 ユダヤの血を引く彼は、幼年時からナチスドイツの迫害を受けた。それを逆手にとって、「ナチ・ロック」というノリのいいアルバムも出したりした。
 ゲンスブールは、反体制的人間だったと思う。しかし、右翼とか左翼とか、そんなイデオロギーでガチガチな人ではなかった。思想な主義なんか、くそくらえ。俺は、俺であることが所属先であり、仕事であり、生業なんだ… そう生きようとし、実際、そう生きた人だった。

 裕福とはいえない家庭で育った。ゲンスブールを身籠った母親は、堕胎(中絶?)を決心し、当時法律違反だった「闇開業医」を訪れた。その手術台、診察室の汚さに恐れをなし、母は堕胎を断念した。
「俺は生まれてくるべき人間でなかった」そんな思いも、ゲンスブールにはあったらしい。

 20歳の頃、昭和女子大の人見記念講堂のコンサートに行った。ステージの上で絶え間なくジタンを吸い続け、カッコヨカッタ。ぼくもマネして、ジタンばかり吸っていた。
 たぶん、このような人は、もう出てこない… この世の人間、ひとりひとり、みんな、そうなのだけど。
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