第21話 レコード・ジャケット

文字数 700文字

 LPである。CDが世に蔓延る前。
 レコード針を買い換えるのが、快感だった頃。
 大きなLPのジャケットは、CDにはない、迫力があった。

 ぼくが圧倒されたのは、ブルース・スプリングスティーンの「THE RIVER」のジャケット。
スプリングスティーンの、どアップである。
 この顔に、ぼくが何を問うても、何を訴えても、ぼくはどうにもならない、と無力を感じた。
問いは、ぼく自身への問いに代わり、訴えは、すべて受け容れられるような顔だった。

 ぼくは12、3歳だったから、そう感じたのかもしれない。今、初めてそのジャケットを見ても、なんとも思わないかもしれない。
 でも、あれほど説得力のある顔は、今もってその「THE RIVER」のジャケットの、スプリングスティーンの顔以外に、思い当たらない。

 よく思うのだけど、いいアルバムほど、そのジャケットが、中身の曲と一致している。曲を聴いていて、そのジャケットが思い浮かんだりする。
 いい小説のタイトルが、その内容と一致するのと似ている。

 ボブ・ディランの「欲望」は、荒野にいるディランの横顔で、何かを探し求めているように感じられるし(その口元は笑っている)、「激しい雨」は、モノクロで長髪の、挑発的なディランの、どアップ。そのままの、ライブ、という中身が現わされている感じがした。

 矢沢永吉の「ドアを開けろ」、「キス・ミー・プリーズ」も、カッコイイ。
 しかし、ローリング・ストーンズに、カッコいいジャケットがないのは、気のせいだろうか?
 ジーパンのチャック(本物のジッパー)が付いていたジャケットがあった。
 あれを開けたら、何が出てきたのだろう? どうでもいいけど。
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