UMA探索隊

文字数 1,470文字


 UMAのものらしき足跡を、揖斐川上流で地元の女子高生が発見した。ある富豪が私設探索隊を組み、UMAハンターの俺たちは徳山ダムにベースキャンプを構えてその正体を追うことになった。
「青田副隊長さんよお、木曽三川をすべて言ってみろ」
 夜になり酒癖の悪い長束(ながつか)隊員に絡まれる。四人は焚き火を囲っている。
「木曽川、長良川、そしてこの揖斐川だ」
 UMA探索隊副隊長である俺がクールに答える――含み笑いが聞こえた。
「そんな一般常識よりも、上級国民は入浴の際も全裸にならないらしいわ。浴衣を着て入るみたい」
 紅一点の大垣隊員がうん蓄を披露しだす。だがそれは、浴衣の語源である湯帷子(ゆかたびら)のことだ。平安時代の上級国民(やんごとなき)方々の話だ。
「大垣君、その発言に何か意味があるのかな?」
 三日月隊長の優しく鋭い眼差しを焚き火が照らす。大垣隊員は目を逸らさない。
「はい。UMAである巨大類人猿は雌と思われます。このダムで水浴びしたくても我々がいたら恥じらうかも……。UMAへと特大浴衣を仕立てるのはいかがでしょうか?」
 足跡から推測すると、UMAの全長は五十メートルと思われる。地球史上最大生物と噂されるアルゼンチノサウルスの体長四十五メートルを上回る。そいつの浴衣を作るだと?
「ナイスアイデアだね。さすがは悠美佳(ゆみか)だ」
 俺は好印象を得るために追随する。さりげなく名前で呼んで距離を縮める努力もする。
「青田君が称賛するとは珍しい。よほどの閃きだろう。さっそく大垣君と青田君で取り掛かってくれ」
「「はい!」」
 隊長への返事が俺と重なってしまい、大垣隊員が照れ笑いする。

「どこの産地に頼みますか?」
 悠美佳が聞いてくる。彼女は打ち合わせのために俺のテントを尋ねてきた。端麗甘口な顔がランプに照らされる。
「ミンサー織り以外考えられない」
 俺はきっぱりと答える。「ともに八重山諸島に飛ぼう。泊まりで。水着持参で」
「ラジャー」と悠美佳が笑う。「今夜はここに泊まっていいですか? いまから二人の距離を縮めるために」

 *

 二人の距離は充分に縮まったので、わざわざ八重山まで行く必要はなくなった。二人は浴衣生産日本一とネットで記されていた浜松市へと向かう。
「全長五十メートルの浴衣をボランティアで作れというのですか」
 やはり浜松浴衣協同組合理事長が難色を示す。
「UMAとコンタクトするためです」
 俺は頭を下げる。「代わりにUMAの命名権を浜松市に授けます」
 理事長の目が光った。
「浜松市のゆるキャラをご存知ですか? 『出世大名家康くん』と『出世法師直虎ちゃん』です」
 聞きたくない話を語りだす。「その二人は揖斐川上流の市町村に譲ります。代わりに、UMAを浜松市のマスコットキャラクターにさせてください。いくらでも浴衣を作りましょう」
「UMAは雌の巨大類人猿です」悠美佳が言う。「あなたならば名前はなんとしますか?」
 理事長が微笑んだ。
「揖斐川の最奥に生息してこの時代まで神秘のヴェールに隠されてきた……ヴェーと名付けましょう」
「素晴らしい。浜松市にすべてを任せます」
 勝手についてきた長束隊員が独断した。

 *

 浴衣造りはゆっくりと進行していく。ヴェーという呼称は好感度が低く、いつしかヴーという呼び方に変わった。三日月隊長が定年退職し、発見者である地元女子高生と俺がよろしくやっていたことに気づいた大垣隊員が去り、いつしか探索隊は二人だけになってしまった。
 二人だけでたき火を囲む夜、長束隊員がぽつり言う。
「もう1400字だ。面白くないし、打ち切ろう」
「そうですね、ヴヴヴ……」
 ヴーが姿を現した。
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