プロット

文字数 4,575文字


 竹生夢月(たけおゆづき)は、雪積もる地方都市の十五夜市在籍の小学校六年生。容姿はまずまず運動はまあまあ勉強はそこそこの、元気が取り柄の女の子。
 地元の中学に進学の予定だったが、卒業式前日に東京の文武第一中学から合格通知が届く。そこは日本を代表する私立大学の唯一無二の付属中学。文武高校から文武大学へとエリート街道一直線。
 でも私はお受験していない。そもそも申し込んでもいない。

 なので卒業式の日に校長先生に尋ねる。
「なるほど。これは『活性化枠』だ。たしか竹生君は新聞に二度ほど載ったね。それで選ばれたのだ。あくまでも君の意思が優先だから、断ってもいいのだよ」
 じつは三回載っている。川に落ちた保育園児を助けようとして一緒に溺れかけたのと、自分の家が分からなくなったお婆さんを助けようとして一緒に迷子になったのと、雪かきボランティアに参加して埋もれかけたのと、山の清掃ボランティアに参加して遭難しかけたのがだ。あっ四回だった。
 とにかくそれで選ばれたそうだ。私は超有名学校が是非にと欲しがる逸材だったのか。

「夢月はそそっかしいし、勉強もついていけない」と両親は反対するから、なおさら心に火がついた。
「私は文武第一中学に行きます!」宣言する。でも『活性化枠』てなに?



 近辺に知り合いのいない『活性化枠』の人は、文武第一小学校から進学した子の家庭にホームスティすることになっていた。
 夢月は沖名杏里(おきなあんり)の家に住まさせてもらう。杏里は両親同様にしっかりして面倒見のいい女の子だ。背はでかい。
 杏里の親友である尾羽綾(おばあや)とも仲良くなる。この子は小柄でおとなしめだけど優しい。文武第一高校二年生の姉がいる。
 三人並ぶと背丈は夢月が真ん中。活性化枠を聞いても二人は教えてくれなかった。
「友だちになろう。私たちが応援する」杏里と綾が手を握る。何を応援してくれるの?

 入学式。編入生は二十名だけ。固まって座る。
 新入生挨拶は、文武第一小学校で生徒会長をしていた三角直正(みかどなおまさ)。格好いいし頭脳も運動神経も抜群らしい。でも名前の通りに堅物そう。
 編入生の代表挨拶は、紀局燕(きつぼねつばめ)というきれいな女の子がした。司会の先生が私をちらりと見る。
「今年は活性化枠が一名おります。竹生夢月さん、ご挨拶をお願いします」
 失笑を感じたけど気のせい? そもそも私が壇上に立つなんて聞いてないし。赤面しながらしどろもどろに挨拶をする。盛大な拍手に交じって反感も感じる。
 そのまま祭壇脇の席に腰をおろす。右隣に座る燕さんがにこりと微笑むので会釈する。そんで左隣の三角くんへと。
「さんかくさんでしたっけ」
 じろりとにらまれる。
「田舎出身の学力不足が話しかけるな。夢の字を『ゆ』とだけ読ませるな。俺は潔癖症だから気持ち悪くなる」
 むかついたけど、みんなの前だから怒鳴ったりしなかった。

 一年生は八クラスあり、夢月は綾と同じクラスだった。杏里は隣のクラス。先生はジャージ姿の若い男性。夢月の自己紹介でクラスからまた笑いを感じた。先生は露骨ににやにや笑っている。
「なにがおかしい!」夢月が怒鳴る。綾があたふたする。
「活性化女だからだよ。杏里たちから聞いてないのか?」後ろの席でふんぞり返る背の高い男子に睨みかえされる。こいつは藤原耀夢(ふじわらようむ)。ちょっと素行不良らしい。髪の毛ナチュラルというけどどうみても染めているし。
「活性化枠を馬鹿にするな」先生が怒る。「彼女は、お前みたいにエスカレーターで進路が決まって覇気をなくした奴らに、元気を与えて喝をいれるためにこの学校に来た。選ばれた女の子だ」
 そう言って先生はぷっと吹きだす……。

 放課後、部活を何にするか仲良し二人に相談する。杏里はバスケ部、綾は文芸部に入るらしい。
「私は何にしようかな? 体育系と文科系は掛け持ちできるの?」
「夢月は部活している暇ないかも」
「そんなに勉強きついの?」
 でも言葉を濁される。
 その夕方、綾の家を杏里と訪ねる。陽衣(ひい)姉さんの口から知らされる。
「活性化枠は成績が悪くても、まあ許される特別な存在。じきに分かることだけど、夢月はこれからノルマを与えられる。それを二度続けて達成できないと活性化枠でなくなる。そうなると勉強でついていけなければ補習の嵐、ハリケーン並みの大嵐。そのために転校した子もいる」
「なにそれ? というか何をやらされるの?」勉強以外ならば何でもやってやる。
「それを決めるのは男子。夢月は男の子が望むものをそいつに渡さないとならない」
「なにそれ……」
「でも成功すると、その男子と一日デートができる。ちなみに男子は何かしらに秀でた同級生から選ばれる。期日までにノルマを達成してデートできるか、学校中の視線が夢月に集中。期日が近づくにつれて校内がそわそわしてくる」
 しかも三回続けて成功するまで、卒業するまで二か月ごとにあるそうだ。高校まで続くらしい。なんだそりゃ。
 活性化枠は女の子限定。数年に一人ぐらい。継続した最長記録は中三の夏まで。最短は中一の秋までらしい。今は夢月だけ。高校一年生に元活性化枠の人がいるそうだ。



 翌日の放課後、快活そうな男の子がやってくる。石作史真(いしづくりしま)。夢月から目を伏せて。
「俺がノルマをだすことになった。俺デートなんて恥ずかしいから、絶対に無理なのをお願いする。次を頑張れよ。その時は俺も応援するから」
 照れたように言う。史真君は、ちょっと小柄だけどスポーツ抜群で小学校のサッカー部でエースだったとのこと。
 無理と言われると負けん気が湧いてくる。
「なんでも叶えてあげる。言ってみなよ!」
「サッカーリーグのチェントフォーレ対トロピカール戦。その特等席。つまりプレミアムチケットが欲しい」
 帰宅後ネットで検索。ロイヤル会員限定で値段が出てこないけど、どうやら年会費が二十万円以上の人たちが更に抽選……。こんなもの手に入れられるか!
 翌日朝練の史真君を捕まえる。視線が集中するのを感じる。
「お金は誰が用意するの?」
「金無しで達成出来るから学校もオーケーしたんじゃね。ゲットできたら一緒に行こう。デートはそれでいいや。ペアチケットに変更しといて」
 なるほど学校でチェックはしているのか。ならばとんでもないことを頼まれる恐れはない。スカートの中見せてとか……。それどころではない!
 期日は新月が満月になるまでのほぼ二週間。ほとんど無抵抗に日にちが立つ。授業のレベルが高すぎだし、まじで補習の嵐になってしまう。土日休みがなくなる。
 なので相談相手を探す。賢いとされる三角君に知恵を拝借しにいき突き放される。でも彼と一緒にいた女の子が考えてくれる。編入枠代表の女の子、燕さんだ。
「悪いことをすれば手に入るかも」
「たとえば?」杏里が聞く。
「クラブチームのデータベースに侵入して改竄して、あなたをロイヤル会員にしちゃうとか。ついでに抽選も操作しよう」
 にやりと笑い学校のパソコンを操作しだす。それって指定されたサイトにしか行けなかったよね。そもそも改竄って何だ? 綾に聞いて、燕さんへ丁重に断る。三角と燕さんは並んで部屋を出る。
 そして時間切れ。史真君はにっこりと夢月に親指を立てる。彼のファンの女子たちから安堵が漏れた気がした。
「クラブだけでなくスポンサーにアプローチしたのか?」後日三角に聞かれる。「我が校のOBに出世した人は多い。理由を真剣に説明すれば、面白がってチケットを手に入れられたかもしれない。子どものオモチャじゃないと、お前と史真を説教した可能性のが高いけどな。でも素直な史真は心を入れ替えて難題を変更しただろう。俺ならそうしたな」
 今さら言うな!

 次回は六週間後の新月から。誰が難題を吹っかけてくるか三人で予想する。レベルの高い男子がまだまだいるみたい。
 そして初めての中間試験の結果は……
「すごい! 最下位じゃなかった!」
 この成績で褒められた。ここは天才の集まりか?
 大方の予想を裏切り、次は倉持文斗(くらもちふみと)からの難題になった。都内からの編入枠だから誰も知らない。眼鏡の真面目な勉強少年ぽいけど、地顔はよさげ。彼が望むものは。
「期末試験で学年一位」
 中間試験は三位だったらしい。ちなみに二位が三角。一位は燕さん。
「勉強は駄目。じつを言うと、私は後ろから数えてあなたと同じ順位」
「僕は集中力が足りない。四時間続けて勉強するとゲームをやりたくなってしまう」
「気晴らしは必要じゃないの?」
「一度手にすると、気づくと四時間続けてゲームをしてしまう。満月まで一緒に勉強して、僕がゲームを手にしたら叱って欲しい」
 ひえええ……。勉強は大嫌いだけど仕方ない。気分を変えるために、倉持君の家、綾の家、杏里の家で順番におこなう。
「すでにデートじゃないかよ」と、藤原君グループにからかわれる。
「もしかして私より順位が下はあんたたちの誰か?」
 夢月の言葉に、一人が真っ赤になって怒りだす。倉持君が私の前に出る。
「お前たちは勉学の邪魔だ」
「まったくだ。竹生、頑張れよ」そう言って立ち去る藤原君を子分たちが追う。
 私いまキュンとした? 誰に?



 満月翌日が期末試験。結果は、勉強漬けの夢月は順位をそこそこアップした。
 でも倉持君は二位。一位は三角……。
「ごめんね、僕の力が足りなかったからだ。これからも一緒に勉強しよう。補習を助けてあげる」
 勘弁してくれ。
「残念だったな。お前ならば転校することはないだろ」三角が言う。「燕は一番得意な数学でしくじったらしいな。式は完璧なのに、答えの数字がちょっとずつ違った。イージーな計算ミスを連発だ」
 あの人はもしかしてわざと間違えた? それに比べてこいつは彼女に勝った、やっぱ俺ナンバーワンと喜んでいやがる。

 校長室に呼ばれる。
「倉持君は惜しかったが、それ以上に君の順位を上げてくれたな。彼は君に勉強を教えて燃え尽きたと三角君が言っていたが本当みたいだな。であるから特例で、今回は失敗でも成功でもなしにしよう」
 つまり引き分け? 次回に成功しないと補習嵐は変わりないか。

 倉持君と廊下で二人きりで話す。
「一日デートでなく半日デートになった。明日午後一時から図書館で勉強デート。それともゲーセンで不健全デート。どっちにする?」
 あちこちからの視線を感じまくり……。
「そんなところに行っていいの?」
「僕も一人じゃ怖いから連れが欲しい」
 勉強デートに決める。当日は図書館内にギャラリーがいっぱいいた。
「この漢字の音読み何だったっけ?」小六の国語でつまずく。
「どれ?」夢月の机をのぞき込む倉持君。
「ざわざわ」
 ふいに彼と目が合う。
「竹生さんは色白だったんだ。ずっと一緒だったのに今ごろ気づいた」
「ゆ、雪国育ちだからかな」見つめられて目をそらしてしまう。
「ざわざわざわざわざわざわ」
「集中できないね」眼鏡を外して微笑む倉持君。「やっぱり僕の部屋に移動しようか?」
「きゃあああ」ギャラリーの悲鳴。
「文武第一中学の皆様、いつもと同じく静かにしてください」館内放送に注意される。

 一学期が終わる。里帰りだけどちょっと寂しい。
「次は八月だな。実家でかき氷ばかり食ってるなよ」
 担任に言われる。
「なにがあるのですか?」
「男からの無理難題に決まっているだろ」

 夏休みもかい!
 受けて立ってやる。次の男子は誰だ。私と真夏のデートをしたい奴は?
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