二十六夜の二十六歳と二十六年式拳銃
文字数 2,000文字
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中学校の同窓会でひさびさに葵と会った。
目を合わせるのも辛い二人。なのにくじ引きで席は隣。
「あ、
葵が“地元在住二十六年すでに子供四人”女子とチェンジしようとして安堵する。
「そこ、駄目だよ。それをやったら抽選の意味がない」
なのにエルヴィン・スミスみたいだった生徒会長が26歳になっても仕切り、隣同士のままの二人。家も隣同士だった二人。幼なじみだった二人……。
葵は保育園時代はどんぐりだった。小学生の時はヒマワリの種だった。中学生になるといきなり美人になり、体はどんどんエロくなっていった。高校生で僕のセフレになった。いろいろあって別れてしまい、僕は地元に帰りづらくなった。
『出席しないって。悠斗もでしょ?』
母親同士のやり取りを信じた僕がおろかだった。ひっそりしないと女子たちに吊るし上げられる。面積が倍近くになった
だとしても隣を盗み見てしまう。離れ離れの八年を経て、幼なじみはさらにきれいになった。手酌する彼女の横顔に、僕の妖精はうずいてしまう。
ちなみに妖精とは僕の
「悠斗君おとなしいね」
高校時代のセフレ2号がやってきた。こいつはたまに上京すると僕に連絡してくる。しかし実質的に小中高一貫教育な僕の故郷は窮屈だ。人間関係がベトベター。
「隣になっているし、すごい腐れ縁。葵は新しい妖精君を見つけた? 探偵してもらってる?」
なんてことを言いやがる。というか、
「僕は(そのキーワードを)教えてない」
葵へ言うけど、
「誰かが一部に自慢してたかな」
2号が笑う。
葵の横顔が引きつった。なぜか
「そんでさ妖精は、今は二十六年式拳銃と呼ばれてる。使い込まれた大人の銃。先月も撃たれちゃった」
こいつはゴールデンカムイを推してたな。僕の
「寝取り野郎!」
1号であった葵が2号にワインをぶっかけた!
「腐れ外道!」
僕にはコップの水をかける。知らぬ間に葵は酔っていた。……アルコールに弱いなんて知らなかった。十代の彼女しか知らなかったから。
*
「悠斗は隣だったよな。責任もって送ってほしい」
小中高一貫生徒会長に命じられても懐かしくない。僕は二次会に参加することなく、トイレに二十分引きこもった葵の護送をする羽目になる。
師走の夜。星空。澄んだ空気。僕と酸っぱい匂いの葵だけ。
「両親とも不在だから。タクシー汚しちゃやばいし」
彼女が辛そうに言う。
だったら葵の部屋で決まりだね。朝まで。
十年前ならそう言っていたかも。
ともに一人っ子だった二人。僕の親に迎えを頼んだけど、すでに飲酒していた。
「女子の誰かが送ると思った」
「私、東京に行ったから。いいとこで働いてるから妬まれてる。
「僕も浮いていた。出席しなければよかった」
それきり黙って夜道を歩く二人。葵が立ち止まる。また吐いた。背中をさすってあげたいのに、もう彼女に触れられない。
「悠斗のせいだ。いつもはこんな飲み方しない」
そんな気がしていた。天罰はなぜか彼女に向かった。
「ごめんなさい」
「うるさい」
また黙りこむ二人。道にしゃがみこむ葵。田舎道。満天の星。いつか二人で見上げた夜空。家まであと十分ぐらい。
「おんぶして。そしたらゆるす」
僕は下校を思いだす。じゃんけんで負けたほうがランドセルを両方持つ。もしくは相手を背負う。そんな遊びをしていた。
僕は腰をおろす。葵は僕の胸に手をおろす。大人になった葵。コートも着ているから重い。髪にゲロかけられたりして。もちろんゆるす。
「私の部屋まで乗せて」葵は背中でそんなことを言う。
「いいの?」
「食いつくな。反省しない奴……。悠斗は汗臭い」
「会場の暖房が強すぎた」
夜になるとやけに静かな故郷。額にも汗を流しつつ黙々と歩く。葵の吐息が聞こえる。
「月はもう沈んだかな」息切れしながらつぶやく。
「真夜中にようやく昇りだす」
葵がうずもれた声で教えてくれる。「魚の骨みたいな月。その月の出を見ると願いごとが叶うって。でも今夜じゃない。決まった暦の二十六夜だけ」
そんな妖精みたいな月夜があるならば、僕は時間を取り戻したい。十六歳あたりからやり直したい。
「見たい」
「見ているよ。……一緒に」
「だったらいつかまた、魚の骨を葵と見たい」
その月を望みながらプロポーズしよう。僕らの地元じゃ適齢期だし、漠然と想っていた二人の未来に遠回りしただけ……。アルコールが脳みそを廻っているだけ。
葵のおでこが僕の頭にぶつかる。うなずいたのか分からない。僕は彼女を背負って歩き続ける。葵は僕にしがみついている。