第17話 ウワサ
文字数 1,705文字
「で、いちゅカチコミ行くんでちか?」
テレビ電話の画面から、デンがさくらんぼを舌で転がしながら聞いてくる。
「や、特には決めて無いが、姉妹の武器も揃った事だし、明日にでも乗り込もうかなとは思ってるけど。」
「火曜日まで待たないんでちゅか?」
「あー、まぁ。そうしようとも思ったんだけどさ。今日、まだ土曜日だろ。こいつ等のモチベーションもあるし。目の前にずっと探してた親の仇がいるんだ。姉妹の心情的にも、あんまモタモタしてらんないかなって思ってさ。」
「へ~。」
デンがなにやら感心したように含みのある相槌を打って、顔をニヤけさせる。
「なんだよ。」
「いや、なんだきゃ、長いこと竹田しゃんとちゅきあいありますけど、あなたが人を思いやりゅなんて、初めて見たにゃあと…。」
「な!、失敬なっ。俺だってそれくらいの感情は持ち合わせてるっての。… …って、こんな余計な事に気を回すのが面倒だから、今まで誰とも組んで無かったんだけどなぁ。はぁ、何の因果か。」
薄々気づいていた自身の現状をデンに真正面から言い当てられて、俺はなんだか眩暈がした。一人で気儘に暮らしてた頃が遥か昔のように感じる。大層疲れた気がして、額に手を当てて少し眼を瞑る。
「キュフフ…。身から出た錆 でちよ。でも、明日行くとなると能力が使え無いからリスクが高まりまつね。」
「まぁ、其処は絶姉妹が居るって事で
「… … ……赤龍会。竹田しゃんが居なくなってから、かなり立場が弱くなってるみたいでしゅね。竹田しゃんが居た頃は雷の能力が恐ろしくて、周りの組も赤龍会には手出しが出来無かったけれど、あなちゃが去った後は水を得た魚のように活き活きしてるみたいでつ。」
「あぁ、何となくウワサには聞いてる。」
俺は護身用のトカレフの銃身をタオルで拭きながら答える。その間も絶姉妹は飽きる事無く、辺りの大木に全力で攻撃を仕掛けていた。
「じゃあ、芥次郎 が大分参ってるのも、ちってますか?」
「参ってる?イヤ、其れは知らない。どういう事だ?」
「竹田しゃんが居る頃は、其れは大分と傲慢にゃ事もやってきてまちたからね。怨みも沢山買っていた。だからあなたが出てった後、その頃のお礼が一気に届いてるって訳でつ。其れで芥、結構、精神的にキてるらちいでつ。で、赤龍会を立て直す為に今は形振 り構ってらりぇ無いみたいでつよ。ウワサでは、かなりヤバい奴らも雇い入れてりゅとか… …」
「ヤバい奴?… 一体誰だろう…」
「其処までは、わたちも分かりましぇん。まぁ、あくまでウワサでつけどね。」
「…なるほどね。」
ヤバい奴か。俺が出て行った後、赤龍会が斜陽だったのは何となく聞いていたが、だからと言って芥がそんな連中を雇うだろうか。
ヤクザの世界にも堅気と同様、業界の秩序というものがあって、その秩序を規範としながらその中で皆生活している。あらゆる業界には其の業界の秩序が存在する。そういう規範に従え無い、通常のコミュニケイションさえ不能の無秩序な奴ら。奴らを所謂、外道と言う。
芥は小者だが、そういった意味でヤクザの世界の仁義は弁えている男である。外道みたいな輩を雇う等というリスクは侵さないと思うのだが…。
「まぁ、気をちゅけすぎても悪い事は無いので、出来る限り用心してくだちゃい…。」
「… …… …」
今度はこっちがデンを半笑いで見返してやる。
「… … ……な、なんでちか。」
「… …イヤ。なんだか、今日はやけに親切だなぁって思って。」
お返しに冷やかしてやると、デンはあまりこういうイジリには慣れて居ないらしく、テレビ電話の画面に収まり切らない程に縦横にブレながら、激しく慌て始めた。
「や!やいやいや、!た、竹田しゃんが死んでしまっちゃら、金づるが一つ無くなっちまうので!だもんで、其れは困るなぁ…っと!其れだけでつよ。其れ以外に!他意はございません!」
「イヤ、そ、そんなに全力で否定しなくても…」
お前はピュアーか。悪霊引き連れてるサイコ野郎のクセに。大量の汗をかいて焦っているデンを見て、俺はからかった事をちょっと申し訳なく思った。
テレビ電話の画面から、デンがさくらんぼを舌で転がしながら聞いてくる。
「や、特には決めて無いが、姉妹の武器も揃った事だし、明日にでも乗り込もうかなとは思ってるけど。」
「火曜日まで待たないんでちゅか?」
「あー、まぁ。そうしようとも思ったんだけどさ。今日、まだ土曜日だろ。こいつ等のモチベーションもあるし。目の前にずっと探してた親の仇がいるんだ。姉妹の心情的にも、あんまモタモタしてらんないかなって思ってさ。」
「へ~。」
デンがなにやら感心したように含みのある相槌を打って、顔をニヤけさせる。
「なんだよ。」
「いや、なんだきゃ、長いこと竹田しゃんとちゅきあいありますけど、あなたが人を思いやりゅなんて、初めて見たにゃあと…。」
「な!、失敬なっ。俺だってそれくらいの感情は持ち合わせてるっての。… …って、こんな余計な事に気を回すのが面倒だから、今まで誰とも組んで無かったんだけどなぁ。はぁ、何の因果か。」
薄々気づいていた自身の現状をデンに真正面から言い当てられて、俺はなんだか眩暈がした。一人で気儘に暮らしてた頃が遥か昔のように感じる。大層疲れた気がして、額に手を当てて少し眼を瞑る。
「キュフフ…。身から出た
「まぁ、其処は絶姉妹が居るって事で
とんとん
かなとは思ってる。」「… … ……赤龍会。竹田しゃんが居なくなってから、かなり立場が弱くなってるみたいでしゅね。竹田しゃんが居た頃は雷の能力が恐ろしくて、周りの組も赤龍会には手出しが出来無かったけれど、あなちゃが去った後は水を得た魚のように活き活きしてるみたいでつ。」
「あぁ、何となくウワサには聞いてる。」
俺は護身用のトカレフの銃身をタオルで拭きながら答える。その間も絶姉妹は飽きる事無く、辺りの大木に全力で攻撃を仕掛けていた。
「じゃあ、
「参ってる?イヤ、其れは知らない。どういう事だ?」
「竹田しゃんが居る頃は、其れは大分と傲慢にゃ事もやってきてまちたからね。怨みも沢山買っていた。だからあなたが出てった後、その頃のお礼が一気に届いてるって訳でつ。其れで芥、結構、精神的にキてるらちいでつ。で、赤龍会を立て直す為に今は
「ヤバい奴?… 一体誰だろう…」
「其処までは、わたちも分かりましぇん。まぁ、あくまでウワサでつけどね。」
「…なるほどね。」
ヤバい奴か。俺が出て行った後、赤龍会が斜陽だったのは何となく聞いていたが、だからと言って芥がそんな連中を雇うだろうか。
ヤクザの世界にも堅気と同様、業界の秩序というものがあって、その秩序を規範としながらその中で皆生活している。あらゆる業界には其の業界の秩序が存在する。そういう規範に従え無い、通常のコミュニケイションさえ不能の無秩序な奴ら。奴らを所謂、外道と言う。
芥は小者だが、そういった意味でヤクザの世界の仁義は弁えている男である。外道みたいな輩を雇う等というリスクは侵さないと思うのだが…。
「まぁ、気をちゅけすぎても悪い事は無いので、出来る限り用心してくだちゃい…。」
「… …… …」
今度はこっちがデンを半笑いで見返してやる。
「… … ……な、なんでちか。」
「… …イヤ。なんだか、今日はやけに親切だなぁって思って。」
お返しに冷やかしてやると、デンはあまりこういうイジリには慣れて居ないらしく、テレビ電話の画面に収まり切らない程に縦横にブレながら、激しく慌て始めた。
「や!やいやいや、!た、竹田しゃんが死んでしまっちゃら、金づるが一つ無くなっちまうので!だもんで、其れは困るなぁ…っと!其れだけでつよ。其れ以外に!他意はございません!」
「イヤ、そ、そんなに全力で否定しなくても…」
お前はピュアーか。悪霊引き連れてるサイコ野郎のクセに。大量の汗をかいて焦っているデンを見て、俺はからかった事をちょっと申し訳なく思った。