第2話 血塗られた急襲②

文字数 1,903文字

先ほどのちんけな偽装とは打って変わって、奴らの身体からは隠しきれないほどの殺気が放たれていた。
絶マキコは猫のように身体を丸めながら此方を睨み続けている。そして口元からは終始、渇いた微かな声をあげながら、涎を垂らしていた。理性がぶっとんでいるような姿だった。そしてその隣に立っている絶ヨウコはマキコとは対照的に戦闘態勢らしい構えはとらず、此方に半身になりながら直立していた。無表情な目元からは眼鏡が外され、右手に持っているという状態だった。
俺たちの戦闘地帯の出現で辺りは騒然としていた。
大学の生徒たちは目の前の事態に対して様々な反応を示していたが、女生徒の大半は焼死体を見て気が狂ったような金切声を上げ走りさっていった。事態を正しく把握出来ない、生存本能のマヒした男生徒の幾らかが、携帯のカメラで撮影を行っていた。俺は野次馬自体はどうでも良かったが、カメラ撮影されるのは正直御免だったので、最寄りの木の横で撮影している男に向かって人差し指を親指で弾いた。男の脳天に雷が突き刺さり、黒い煤けた燃えカスになり風に消えた。残っていた野次馬共もそれを期に奇妙な奇声を上げ逃げて行った。
それから俺は目の前に居る敵に相対した。
現状はただでさえ数的不利であり、しかも相手はあの噂に名高い絶姉妹である。俺のセンスが奴らに対して無暗に突っ込んではいけないと告げていたので、俺も臨戦態勢をとりつつ様子見をした。初手をあそこまで完璧に避けられては正直やりづらい。流石に奴らの危機察知能力は目を見張るものがある。まるで野生の獣のようだ。
「少し聞きたいんだが、良いか?」
俺はとりあえず間を繋ぐため、質問をしてみた。奴らの見た目からは素直に問い掛けに応じるようには見えなかった。
「何さ」
女番(スケバン)マキコが涎を垂らしながら応じた。
「何故俺を襲う?」
そう言うと、マキコとヨウコは、はっと驚いたような顔を同時にした後、顔を見合わせて大声で笑いだした。
俺は意味が分からなかった。少しむかついた。
「何が可笑しい」
「あっはっは。そりゃ、可笑しいさ。あんた、自分が何故襲われないと思ってる?」
マキコが口元の涎にやっと気づいてセーラ服の袖で拭いながら言う。
「お前らに恨まれる覚えがないからだ。」
その瞬間、ガール共の動きがぴたりと止まり、戦闘態勢で俯きがちな顔を更に深く沈ませながらその目は地獄のような輝きで此方を睨みつけた。まるで暗い渦の中から呪い殺すかのような視線だった。
「貴様は何の呵責も無く日々を暮らしていたのだな。此れ程に辺りに因果をまき散らしておきながら。当の本人だけは、貴様だけは何の心当たりも無いと。」
「そりゃ、一一殺した奴らの人生など背負い切れん。」
こういった問いも刺客との闘いの中で比較的、様式美なのであった。
「殺す」
ずうん、という重い音を響かせて、地面へ大きな炎の塊が落ちてきた。直撃を受けた地面一体が激しく燃え上がり、一挙に周辺を火の海に変貌させる。巻き込まれた花壇の草木が無情に燃え上がった。いよいよ周辺の景色が崩壊し始めた。
「… …両親の… …仇ッ!許さないッ!」
気がふれたような挙動で、大量の炎の玉が宙を舞い次々に落下してきた。俺は寸でのところで校舎の壁へ避難できた。俺は奴らの攻撃に応じる形で左腕を鋭く横にスライドさせた。目当てはガール共の隣の建築資材だった。
「サンダー!!」
建築資材に四本の鋭い雷が一斉に落ちて、激しくスパークした。積み上げられていた幾つもの太いパイプが空中に冗談のように弾け飛んだ後、その何本かが絶姉妹の頭上から降り注いだ。
「マキコ!」
その瞬間、大きな岩がぶつかるような音がしてパイプが周辺に四散した。絶ヨウコが氷の塊をパイプにぶつけて辛うじて防いだのだった。
「有難う、ヨウコ」
眼を瞑り、顔の前に両手をかざしていたマキコが言う。ヨウコのアシストが無ければ死んでいた。
「くそが。」
俺はマキコを殺せなくて歯噛みした。やはり二人組というのが極めて厄介だ。互いが互いをアシストできるというのは中々の脅威だった。何とか二人を引き離せないものか。このままでは不可無いと思った俺は、護身用のトカレフをセカンドバックから取り出し丁寧に弾込めをした。奴らがこの銃弾で確実に死ぬように呪いの言葉を発しながら一発ずつ入念に込めた。
それから俺は、背中にガムテープで張り付けていた赤龍短刀をひっぺ返して左手にもった。二人を前方から迎え撃つのは至難の業だ。後方から確実に息の根を止めてやる。息の根を止めてから、しっかりと骨も残らないほどの炭にしてやろう。そう考えて赤龍短刀を持つ手に力を込める。短刀の刃から静かな青い電気がほとばしった。
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