第15話 カチコミ準備

文字数 1,696文字

 俄然原尾四(がぜはら・びよん)の家を後にして数日後、小苦無(しょうくない)30本と野太刀一口(ひとふり)が我が家に届いた。
 IT化された現代は本当に楽だ。少し指先をカタカタと世話しなく動かし、然るべきサイトで注文すれば、滞り無く自宅まで商品を届けてくれる。俺は武器専門の闇サイトで絶姉妹の使用武器を物色、勿論、二人の意向を聞きつつ一緒にネットサーフィンで吟味しながら、希望の品を懸命に探したのであった。
 その結果、苦無は絶マキコの希望で軽く取り回しの(すこぶ)る良い物を見つける事ができた。そして絶ヨウコの使用武器、此方については、その方面にあまり詳しく無い俺でさえも、眼を見張るような中々の代物を見つける事ができたのである。
 野太刀とは、刀身が約90センチ以上ある大太刀の事である。女子(おなご)の白く細い腕で扱うには大層難儀な気もするが、絶ヨウコはこの暴れ馬が扱い慣れていると言う。そして、そんな彼女の眼に止まった野太刀こそ、この『一刀雨垂れ(いっとうあまだれ)』だった。
 一刀雨垂れは、女の(うなじ)のように長く伸びたその刀身が、いつも水気を帯び薄く濡れていた。その有機的な佇まいはまるで生命が宿っているかのようで、何処までも青白く研ぎ澄まされている。ヨウコは武器専門の闇サイトで一刀雨垂れの写真とカタログスペックを一目見ただけで即決したのだった。そして今、その野太刀が俺たちの目の前にあるのだが、成る程、確かに()っと見ていると魂まで吸い取られてしまいそうな、危うい美しさがあった。絶ヨウコに良く似合っている武器だと思った。
 「で、こうやって目の前にあるにはあるんだけど、私たち

んだよね。かなり集中しないと長い時間、掴んでられないんだけど。」
 絶マキコが苦無を掴む素振りをしながら言った。透き通ったマキコの手は苦無を掴むのに難儀していた。気を抜くとすぐに落としてしまう。今は木像ではなく絶姉妹を使役している状態だった。
 俺たちはまず、芥次郎(あくたじろう)のいる赤龍会に乗り込む前に、しっかりと装備を整えておく必要がある。そういう訳で今日は絶姉妹の武器を用意する事に時間を割いていた。
 「あぁ、このままじゃダメだ。まだお前達は武器を使う事が出来ない。此処から、ちょっと一手間掛ける必要がある。」
 俺はそう言いながら、苦無を駕籠に入れ右手に一刀雨垂れを持って、玄関を出た。
 「何処に行くの?」
 「とりあえず、近隣住民の邪魔にならないように裏山に行くよ。」
 俺の頭上で世話しなく動き回る二人を他所に、俺は自宅から程近い裏山の広場に足を進める。暫く舗装された道路沿いを歩き、細い脇道に逸れて立ち入り禁止の看板を越えると、絶姉妹の亡骸を埋めた土山がある場所に着いた。
 「よし。此処で良いか。」
 既に俺はじんわりと身体に汗をかいていた。辺りは相変わらず、しんと静まり返っている。まだ早朝である為、ひんやりとしていた。冷たい空気が火照る肌に心地良い。
 「あたしたちの身体が埋まってるところ… …。こんなところに何の用があるの?」
 絶マキコが辺りを見回しながら言った。俺は荷物を降ろして、苦無と野太刀を一か所に集めて置いた。
 「いや、特に場所には意味は無いんだ。只、広いところが良かったんだよ。」
 これで一通りの準備が出来た。後は、力任せにやるだけだ。
 「えーっと、それじゃ、デン、見ててくれよな。」
 俺は携帯画面に映っているデンに話し掛けた。先ほどからデンとテレビ電話を繋いでいるのだった。
 「はち。大丈夫でちよ。」
 「よっしゃ。んじゃ、始めようかな。」
 「… …山田(マウンテン・デン)。なんで、こいつがいるの?」
 俺は携帯を脇の岩場に置き、ズボンに突っ込んでいた護身用のトカレフを取り出した。それから一発一発丹精込めて弾丸を込め、胸の前に両手で構えた。
 「…ねぇ、だから、さっきから何やってんのってば」
 絶マキコの疑問を後目に、しっかりと確実に一刀雨垂れに照準を合わせる。
 其れから俺は鉄砲の引き金を強く引いた。それを契機に爆発する撃鉄が燃えるバレットを吐き出し、一刀雨垂れの濡れた刀身に深く入り込んだ。刀身にはみるみるうちに稲妻が走るように四方斜めに(ひび)が入り、(のち)、眼が覚めるような音を立てて爆散し粉々になった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み