第8話 ゲルニカとハニワ
文字数 2,380文字
先ほどからゲルニカ(旧:絶マキコ)とハニワ(旧:絶ヨウコ)の表情を読もうと試みてはいるが、ゲルニカの明後日を向いた目鼻立ちとハニワの刳 り抜かれた目口は俺に何の情報ももたらさなかった。しかも、二人は不貞腐れているのか、俺が奴らの魂を引き戻した経緯と絶夫婦を殺した犯人では無い事を伝えたにも関わらず、一切言語を発しないものだから、此方も奴らの意図を図る事が出来ない為、非常にやり辛かった。
「デン。こいつら、表情が無いから何を考えているのか全然分からん。何とかならないかな?」
俺は流石に困り果てて、デンに助け舟を求めた。デンは自身の仕事が終わり、祝いのパフェを冷蔵庫から取り出し、キッチンテーブルで食べている最中だった。
「もちゅもちゅ……。まだ、新しち身体ににゃれて居ないからかもでち。も少ち慣れちぇきちゃら、木像の身体でも、ほんの少ちは動いたりくりゃいはできまちゅ。」
デンはパフェの最後の一口をスプーンでぱくりと食べた後、残ったさくらんぼを口に咥えた。そして、そのまま冷蔵庫を開けて中に手を突っ込んだ。
取り出したのは、新品の新しいパフェ。それをデンは此方の方へ向けて、どうぞと言った仕草を見せる。俺は本日の様々な戦いの所為で、少し甘い物が食べたいと思った矢先だったので、デンの心遣いが嬉しかった。
「……。アハ。パフェか。なるほど、長らくパフェなんて食べて無いなぁ。へー、最近のパフェってこんなにフルーツが上に乗ってるんだね。へー、これが世にいうスウィーツという奴なんだね。アハ。押忍。ごっつあんです。有難く馳走仕るよ。」
微妙にテンションが上がった俺を見て、デンが目の丸くして、咥えていたさくらんぼを飲み込んで言った。
「… …あんた、一体、何りょ言ってりゅんでちか。たれがあんてぁにあげりゅんでちか。」
「へ?」
「こりぇは木像にあげりゅんちゅよ」
「は?木像?」
そう言うと、デンはハンドタオルで頭を無造作に拭きながら、ゆっくりとリビングテーブルまで歩いてくると、パフェを二体の木像、つまりゲルニカとハニワの目の前に置いた。
「… …ぷう。にゃんでか、分かりゃにゃいんでちけどね。黄泉返った霊魂って、何故きゃパフェが大好物にゃんでちよ。これ食べちゃちたら、懐柔できりゅかもちれましぇん」
「パフェ?」
俺は、まさにおっ魂消た。魂に好物なんてものがあるだなんて。
「霊魂がパフェ食うって、一体全体なんだい、それ。」
「ちらないっちゅよ。にゃんてゆうか… …。あ、ちょうちょう。多分、猫にねこじゃりゃし、みたいにゃもんでつ」
パフェの容器には温度差で水滴が幾つも光っていた。それを眺めるような位置にいる二体の木像。その様子が何か物欲しげに見えてくる、と思ったのは思い過ごしだろうか……。と、思った矢先、木像の周りの空気がごごごご…と鳴り始めたかと思うと、二体の木像が細かく振動を始めた。次の瞬間、木像は跳ねたようにパフェに突然覆いかぶさり、争うように食い漁り始めた。こつこつと互いにぶつかるのも意に介さず、無心に食らうその姿は、割とシュウルだった。
5分ほどすると木像たちはパフェを平らげた。ゲルニカとハニワの食べ方は大層汚く、食い散らかす、と言った表現が適切だった。
「木像って、こんなに荒々しい食べ方するんだね。」
俺は感心したようにテーブルの惨状を眺めながら言った。デンも腕組みしながらその光景に目を奪われていた。
「いいぇ…。ふちゅうは、もうつこし綺麗に食べちぇまつけどね。こんにゃに薄汚く食べ散らかちた木像は初めちぇでつ。こいちゅらは、ちょっと特別な気がちまちゅね……。」
「そうなのか。ふーん。」
流石、こういう瞬発力というか、魂の強さは腐っても絶家というところか。相変わらずゲルニカとハニワの表情は分からないが、何故かその醸し出される雰囲気からは、全体的に、落ち着きと言ったものが感じられた。デンの言う通り、これで少しは奴らの心情は平生に戻るだろうか。ともかく、ここから仕切り直して俺は件の目的、つまり俺の殺害命令を出した奴の素性を明らかにせねばならない。そしてその為には、もう一度ゲルニカとハニワへの聞き取りを滑らかに遂行する必要があった。
「あのさ、お二人さん。」
俺は少し、気を使って話し掛ける。
「さっき説明した通り、俺はお前らの両親は殺していない。そもそも会ったことさえないんだ。なので、お前らが俺を仇だと思うのは間違いだ。おそらくお前らに殺害依頼した奴が、偽の情報を流したんだと思う。頼む。殺害依頼した奴の名前を教えてくれないか?」
ゲルニカとハニワは以前として沈黙を守っている。
「お前らを殺しちまったのは本当に悪いと思っている。でも、この世界にいるお前らだって分かるだろ?此処では命を取るか取られるかじゃないか。俺とお前らが戦闘になった以上、それはもう仕方の無いことだ。だが、今こうしてお前らの魂を戻している。それがせめてもの償いと思ったからだ。それで何とか手打ちとしてくれないだろうか。」
俺は出来るだけ平常に理路整然と、自身の瑕疵を極力覆い隠しながら奴らに説明をする。一通り話してから、俺は二人が喋り出すのを根気良く待ってみることにした。
「… ……… …… …ヨウコ。」
ゲルニカがまず声を出した。
「……何、マキコ」
「…… ……私の姿、今、どんなかしら。」
ゲルニカマキコがひと呼吸置いてから、思い切ってといった感じで言う。
「それは、私もとても、聞きたいわ。」
それに続いてヨウコも発言する。どうやら二人はまず、自身達の現状把握から始めるようだった。
「…… …じゃあ、一緒に口に出して、お互いの第一印象を言ってみようよ。」
「…… ………いいわ。それじゃ行くよ…… …せーのっ」
『ゲルニカ!』『ハニワ!』
「デン。こいつら、表情が無いから何を考えているのか全然分からん。何とかならないかな?」
俺は流石に困り果てて、デンに助け舟を求めた。デンは自身の仕事が終わり、祝いのパフェを冷蔵庫から取り出し、キッチンテーブルで食べている最中だった。
「もちゅもちゅ……。まだ、新しち身体ににゃれて居ないからかもでち。も少ち慣れちぇきちゃら、木像の身体でも、ほんの少ちは動いたりくりゃいはできまちゅ。」
デンはパフェの最後の一口をスプーンでぱくりと食べた後、残ったさくらんぼを口に咥えた。そして、そのまま冷蔵庫を開けて中に手を突っ込んだ。
取り出したのは、新品の新しいパフェ。それをデンは此方の方へ向けて、どうぞと言った仕草を見せる。俺は本日の様々な戦いの所為で、少し甘い物が食べたいと思った矢先だったので、デンの心遣いが嬉しかった。
「……。アハ。パフェか。なるほど、長らくパフェなんて食べて無いなぁ。へー、最近のパフェってこんなにフルーツが上に乗ってるんだね。へー、これが世にいうスウィーツという奴なんだね。アハ。押忍。ごっつあんです。有難く馳走仕るよ。」
微妙にテンションが上がった俺を見て、デンが目の丸くして、咥えていたさくらんぼを飲み込んで言った。
「… …あんた、一体、何りょ言ってりゅんでちか。たれがあんてぁにあげりゅんでちか。」
「へ?」
「こりぇは木像にあげりゅんちゅよ」
「は?木像?」
そう言うと、デンはハンドタオルで頭を無造作に拭きながら、ゆっくりとリビングテーブルまで歩いてくると、パフェを二体の木像、つまりゲルニカとハニワの目の前に置いた。
「… …ぷう。にゃんでか、分かりゃにゃいんでちけどね。黄泉返った霊魂って、何故きゃパフェが大好物にゃんでちよ。これ食べちゃちたら、懐柔できりゅかもちれましぇん」
「パフェ?」
俺は、まさにおっ魂消た。魂に好物なんてものがあるだなんて。
「霊魂がパフェ食うって、一体全体なんだい、それ。」
「ちらないっちゅよ。にゃんてゆうか… …。あ、ちょうちょう。多分、猫にねこじゃりゃし、みたいにゃもんでつ」
パフェの容器には温度差で水滴が幾つも光っていた。それを眺めるような位置にいる二体の木像。その様子が何か物欲しげに見えてくる、と思ったのは思い過ごしだろうか……。と、思った矢先、木像の周りの空気がごごごご…と鳴り始めたかと思うと、二体の木像が細かく振動を始めた。次の瞬間、木像は跳ねたようにパフェに突然覆いかぶさり、争うように食い漁り始めた。こつこつと互いにぶつかるのも意に介さず、無心に食らうその姿は、割とシュウルだった。
5分ほどすると木像たちはパフェを平らげた。ゲルニカとハニワの食べ方は大層汚く、食い散らかす、と言った表現が適切だった。
「木像って、こんなに荒々しい食べ方するんだね。」
俺は感心したようにテーブルの惨状を眺めながら言った。デンも腕組みしながらその光景に目を奪われていた。
「いいぇ…。ふちゅうは、もうつこし綺麗に食べちぇまつけどね。こんにゃに薄汚く食べ散らかちた木像は初めちぇでつ。こいちゅらは、ちょっと特別な気がちまちゅね……。」
「そうなのか。ふーん。」
流石、こういう瞬発力というか、魂の強さは腐っても絶家というところか。相変わらずゲルニカとハニワの表情は分からないが、何故かその醸し出される雰囲気からは、全体的に、落ち着きと言ったものが感じられた。デンの言う通り、これで少しは奴らの心情は平生に戻るだろうか。ともかく、ここから仕切り直して俺は件の目的、つまり俺の殺害命令を出した奴の素性を明らかにせねばならない。そしてその為には、もう一度ゲルニカとハニワへの聞き取りを滑らかに遂行する必要があった。
「あのさ、お二人さん。」
俺は少し、気を使って話し掛ける。
「さっき説明した通り、俺はお前らの両親は殺していない。そもそも会ったことさえないんだ。なので、お前らが俺を仇だと思うのは間違いだ。おそらくお前らに殺害依頼した奴が、偽の情報を流したんだと思う。頼む。殺害依頼した奴の名前を教えてくれないか?」
ゲルニカとハニワは以前として沈黙を守っている。
「お前らを殺しちまったのは本当に悪いと思っている。でも、この世界にいるお前らだって分かるだろ?此処では命を取るか取られるかじゃないか。俺とお前らが戦闘になった以上、それはもう仕方の無いことだ。だが、今こうしてお前らの魂を戻している。それがせめてもの償いと思ったからだ。それで何とか手打ちとしてくれないだろうか。」
俺は出来るだけ平常に理路整然と、自身の瑕疵を極力覆い隠しながら奴らに説明をする。一通り話してから、俺は二人が喋り出すのを根気良く待ってみることにした。
「… ……… …… …ヨウコ。」
ゲルニカがまず声を出した。
「……何、マキコ」
「…… ……私の姿、今、どんなかしら。」
ゲルニカマキコがひと呼吸置いてから、思い切ってといった感じで言う。
「それは、私もとても、聞きたいわ。」
それに続いてヨウコも発言する。どうやら二人はまず、自身達の現状把握から始めるようだった。
「…… …じゃあ、一緒に口に出して、お互いの第一印象を言ってみようよ。」
「…… ………いいわ。それじゃ行くよ…… …せーのっ」
『ゲルニカ!』『ハニワ!』